神饌の梨 本井英
膝で水押して渉れば初嵐
百日紅また花筏なせるもの
残暑には違ひなけれどただならず
露の微塵のピアスにも出来ぬほど
鎌倉に月影が谷戸虫の秋
秋蝉が何か炒めるやうに鳴く
着せられて尻はしよられて案山子翁
抱きついて案山子に帯を縫ひつくる
入院の荷物は出来し夜は長し
花野までタクシーで乗りつけし人
細波を押すは細波池の秋
秋蝶は黄なり池水ココア色
芒穂に出でんといまは綰ねられ
さつきから靴に小石が野路の秋
咲くまでの紅のむつつり曼珠沙華
噴水の軸はぶれずよ穂はゆらぎ
伊勢四句
袋掛けて育てまゐらす神饌の梨
岬裾に観光歩道新松子
露けさの黒木鳥居も御塩浜
黒雲がをどりかかりて月呑める
月別アーカイブ: 2013年1月
主宰近詠(2012年11月号)
いましもや 本井英
揚力を楽しんでゐる日傘かな
ペディキュアの赤の蓮つ葉ソーダ水
蝉腹を縮めるときの声高し
いましもや鳴き加はりし法師蝉
沖の帆の白さのもはや秋のもの
捕虫網つひには鳩を追ひまはし
啼きよせてきし蜩に埋もれをり
射かけくる日の箭を蜥蜴弾きやまず
冨士の秀は露の大地を吸い上げて
聞き澄ます遠き蜩ほど高し
別荘の芝の団居の掻き氷
南瓜蔓かな東奔し西走す
秋水をこまごま配り豊の村
大甍が吸ひ込んでゐる鰯雲
城崎・和田山 六句
薬湯を喫し涼しき御境内
日焼子は温泉玉子茹だる待つ
新涼の朝の足湯に人あらず
遠雷に円山川はたゞ平ら
玄武岩好みて敷きて水打ちて
秋草にドクターヘリの降りる円
花鳥諷詠ドリル ‐主宰の句評‐ 第55回 (平成17年12月9日 席題 火事・枯茨)
類焼をまぬがれし家ひそとあり
「ひそとあり」がいいですね。類焼を免れたんだから、よかったんだけれども、隣近所が燃えてしまって、その家だけ燃えていない。ご近所付き合いもなくなってしまって、燃えなかったんだけれど、気持ちはげっそり疲弊してしまって、 笑い声も聞こえてこない。といったような、火事と言うものの持っている、恐ろしい一面をよく表している句だと思いますね。
山盛を足で抑へて落葉籠
面白いですね。これはいかにも形がね、落葉籠の上に足を載せて抑えている、園丁の姿が、人間の姿がよく見えて、うまい句ですね。
菓子職人(パティシエ)の頬少し痩け十二月
たいへん流行っているお菓子屋さんで、一生懸命働いて、人のいい職人が十二月なんで一生懸命お菓子を作っている。なんか気のせいか、頬がすこし痩けて見えた。というところに、菓子職人への愛情があると思いますね。
粕汁や形見となりし合鹿椀(ごうろくわん)
合鹿椀というものを、よく存じません。ただ粕汁が入るということで、何となく民芸風のものなのかなと思います。粕汁に向いているようなもの、それを形見として、私が今使っている。故人がそれをすすっている時の姿も思い出されたということでしょう。
出荷待つポインセチアの鎮まれり
これ、うまかったですね。ポインセチアの鉢って、一個あると燃え立つようで、派手で、いいなと思うけれど、これはうわーっと並べて出荷を待っていると、逆に一つ一つは鎮まっているような、発散しないような、そんな感じがしてきますね。微妙な気分が伝わってきて、いい句だと思いました。
第4回黒潮賞・親潮賞を読んで。(前北かおる)
第4回黒潮賞・親潮賞を読んで。(前北かおる)
今年は、黒潮賞を山内裕子さんが、親潮賞を前田ななさんが受賞されました。おめでとうございます。今年も、受賞作と第二席、第三席の作品について、感想を書いてみたいと思います。
・「宵山」山内裕子
祇園祭の宵山に取材した連作です。宵山の様子が詳細に写生されています。
とつぷりと暮れて見えざる鉾の先
高い建物のない京都の路地の夜空がよく見えてきます。「暮れて見えざる」という中七は、無駄なく描写していながら、ゆったりとした調べに仕上げられています。
タクシーの客の見上げる鉾の空
タクシーで祭を素通りするお客なのでしょうが、思わず山鉾の立ち上がった空を見上げているのです。晴れやかな街の雰囲気が感じられます。
「宵山」に絞って句を並べたために、観光客目線の句も混じってしまっているようにも思いました。
御籤売る子等浴衣着の囃子唄
帯に差すちまきや鉾に笛を吹き
金襴の鉾の飾りの灯に映えて
それぞれ「御籤売る」、「笛を吹き」、「映えて」というところまで言ったせいで、季題が脇に追いやられてしまった印象を受けました。
・「旅一日づつ」前田なな
都府楼と柳川あたりを吟行された句をまとめられたようです。春を謳歌する気持ちに満たされた連作です。
都府楼の空の広さや凧ひとつ
「空の広さや」の切れに当日の伸びやかな気分がよく伝わってきますし、それを「凧ひとつ」と言い収められていて格調高い一句になっています。
咲き急ぎたちまち風の桜かな
「たちまち風の桜かな」の鮮やかさが、桜吹雪の有様にぴたりと合っています。
そのほかにも
ゆつくりと海より霽れて初桜
身を屈め潜る石橋花の舟
鰻屋の列また伸びて花の昼
など、徐々に駘蕩としてくる春の気分に乗せられるように味わうことができました。
・黒潮賞第二席、第三席
第二席、青木百舌鳥さんの「オクラ美味」は、凝りすぎた句が多いように思いました。主宰も評されている
朝蟬や日照雨なりしがさはに降る
シャツ脱いで汗ツ臭さに放りたり
が良いと思いました。
第三席、梅岡礼子さんの「耕」は、農村の一年に取材した作品。田畑を中心にしていますが、「早乙女」や「草刈女」、「農夫」という人々が登場したり、「駐在」「茅葺」「土蔵」といった建物、「鶏」「猪」「小鳥」「鷺」などの動物も出て来て、バラエティーに富んでいます。
鶏小屋の寝静まりたる夜の秋
九月まで猛暑日が続くような街では感じられないような、夏の終わろうとする夜の静けさが思われます。
駐在に寺に役場に青田風
黄を極め赤み帯びたる稲田かな
市に聞く山の向うの雪のこと
など、それぞれの季節の雰囲気がよくわかります。私は、この作品が一番好きでした。
・親潮賞第二席、第三席
第二席、山口照男さんの「父」は、既に亡くなられたお父さまを追懐する句を含む作品。
年々に父の裸に似る吾か
晩年の介護をされた時に見ていた「裸」なのでしょうか。自らの老いを受け入れる心理が描かれています。
とうしみの畳みし羽のずれかすか
静かな句ですが、季題を凝視していて凄味があります。
第三席、山口佳子さんの「上昇気流」は、鷹の渡りを見に行かれた時の作品でしょうか。
鷹柱上昇気流描きつつ
松虫草野麦峠は峰続き
の二句が良いと思いました。
藤沢三田会俳句会に伺いました。英
朝、慌てて外出。うっかり、スマホを忘れて、画像がありません。 素晴らしい吟行日和で、江ノ島を満喫しました。 島裏のハンバ海苔漁は殊に興味深いものでした。 句会後に新年会がありました。英