主宰近詠(2020年1月号)

 文反故    本井 英

鶺鴒のたまさか映る忘れ潮

チェンソーの一つの音に島の秋

流れ来て川霧すやり霞なす

一人干す一人のものや葉鶏頭

夜寒さに目を遊ばする文反古(フミホウグ)



猫にお手教へてをれば夜ぞ長き

ピザ釜を据ゑて疎林や小鳥来る

オクラ畑長けさらぼへて花をなほ

秋風の沼をへだてて力芝

観察窓初鴨がなと覗きみる



紫陽花の実となりそれも枯るるころ

追へばやや急ぐそぶりに穴まどひ

あちこちにホース綰ねて園の秋

花ながら雨の茶垣の整はぬ

蔓葉はらひて藷掘りを待つばかり



虫の音と雨音とあひ縫ふごとし

秋潮を熨し自衛艦一〇五

千両の紅の過渡期を美しと

真青なることも佳きかな真葛

見よがしに咲き連ねたる杜鵑草

主宰近詠(2019年12月号)

稲架立てる場所    本井 英

娘等に流行るは手持ち扇風機

白芙蓉白よりほかの色知らず

いつの間に蜩の熄みわたりをり

初潮の大きく退りゐる渚

ただ高く翔るばかりぞ秋燕



丘をまいて御最期川は浅く澄み

 

浜離宮 二句

いま船で着きし人らに庭の秋 潮浅し小鯊あつち向きこつち向き 父祖の地の根津のここらの秋祭 クロネコの自転車便に辻の秋



五十年棲めばわが町鰯雲

鰯雲大きく破れをるところ

蔓の影くつきり置いて通草かな

どんぐりの幼き色の敷きこぼれ

園内を檄の駆けたる曼珠沙華



知つてゐて雀蜂と目の合はぬやう

小諸俳句田圃

この稲田風のげんこつ喰らひたる 稲架立てる場所をまづ刈り取りにけり 稲架裾を楽しくくぐり蝶黄なる 露草の実のぷつちんの苞がくれ

主宰近詠(2019年11月号)

花野にあり 本井 英

片陰に踏み込めば風流れをり

法師蟬の声調にある折り返し

青ければ青を誇りて金鈴子

藻の花や養鱒場に棲む家族

見えてゐて小鯊ぞすばしこかりける



   

石ノ湯稽古会 十五句

鮠涼し流れてはまた遡り 作り滝聞いてをるなり訃音胸に すでにして地啼にもどり露葎 生きてゐるだけで(オン)の字この花野 乱雑にして虎杖の花盛り




日が射せば木道秋のぬくもりに

竜胆の想ひ出どれも我若き

懸巣かしまし枝うつり樹をうつり

餌を追うて岩魚が走り下るとき

花野囲みて熊・羚羊の棲める森




岩魚沢とは水落とし水落とし

花野にあり(ハフリ)に参じ得ぬままに

羚羊の声のヒューンと露けしや

熊笹は硯のごとく露を溜め

水澄めば(アケ)を帯びたり鮠の鰭

主宰近詠(2019年10月号)

小暗きに   本井 英


降りしぶき戦 梅雨とぞ申すべき

食べかけがあれこれ老の冷蔵庫

ヨーヨーの影箱釣の箱の底

箱釣の水ぶちまけて駐車場

箱釣の箱立てかけてありにけり



 跨ぎして雪渓の人となる

雪渓をしばらく泥の沓のあと

蹴りあげて午後の雪渓ほとびがち

飯田屋ののれん真白にどぜう鍋

どこまでも先達顔やどぜう鍋



楽しいことばかりの頃のどぜう鍋

夕方のバスで来し人月見草

月見草これも山中湖のはなし

林中に避暑地の中華料理店

起きあがる稽古しているヨットかな



 

こもろ・日盛俳句祭 五句

二の丸で見かけし日傘本丸に 雨止めばすぐ澄むといふ鮎の川 白波の嚙み合ふあたり鮎を釣る 囮鮎送り出すとき膝ゆるめ 小暗きに養はれあり囮鮎

主催近詠(2019年9月号)

病を主    本井 英


通院の日々のふたたび梅雨寒し

梅雨寒のいつまで昏れぬ川ほとり

燕翔るロープワークの図をなぞり

色合ひの近親づくめ立葵

十薬の葉をこそ賞づれ濃紫 




東京から来し人々に梅雨晴間

五月晴小型機脚を出したまま

梅雨晴や病めば病を主とし

老鶯のこまぎれながら途切れなく

尻の肉落ちれば硬し涼み石




塗りつけし白の重たし半夏生

夏雲へねぢれ消えたり出発機

刃もてとげし本懐虎ケ雨

鬼王も団三郎も虎ケ雨

こみあげて堰を切りたり虎ケ雨




語りきし果ての号泣虎ケ雨

虎ケ雨化粧坂にも降りおよび

男は死に女は生きて虎ケ雨

虎瞽女の泊り泊りの虎ケ雨

いまに売る虎子饅頭虎ケ雨