主宰近詠(2019年10月号)

小暗きに   本井 英


降りしぶき戦 梅雨とぞ申すべき

食べかけがあれこれ老の冷蔵庫

ヨーヨーの影箱釣の箱の底

箱釣の水ぶちまけて駐車場

箱釣の箱立てかけてありにけり



 跨ぎして雪渓の人となる

雪渓をしばらく泥の沓のあと

蹴りあげて午後の雪渓ほとびがち

飯田屋ののれん真白にどぜう鍋

どこまでも先達顔やどぜう鍋



楽しいことばかりの頃のどぜう鍋

夕方のバスで来し人月見草

月見草これも山中湖のはなし

林中に避暑地の中華料理店

起きあがる稽古しているヨットかな



 

こもろ・日盛俳句祭 五句

二の丸で見かけし日傘本丸に 雨止めばすぐ澄むといふ鮎の川 白波の嚙み合ふあたり鮎を釣る 囮鮎送り出すとき膝ゆるめ 小暗きに養はれあり囮鮎

主催近詠(2019年9月号)

病を主    本井 英


通院の日々のふたたび梅雨寒し

梅雨寒のいつまで昏れぬ川ほとり

燕翔るロープワークの図をなぞり

色合ひの近親づくめ立葵

十薬の葉をこそ賞づれ濃紫 




東京から来し人々に梅雨晴間

五月晴小型機脚を出したまま

梅雨晴や病めば病を主とし

老鶯のこまぎれながら途切れなく

尻の肉落ちれば硬し涼み石




塗りつけし白の重たし半夏生

夏雲へねぢれ消えたり出発機

刃もてとげし本懐虎ケ雨

鬼王も団三郎も虎ケ雨

こみあげて堰を切りたり虎ケ雨




語りきし果ての号泣虎ケ雨

虎ケ雨化粧坂にも降りおよび

男は死に女は生きて虎ケ雨

虎瞽女の泊り泊りの虎ケ雨

いまに売る虎子饅頭虎ケ雨

主宰近詠(2019年8月号)

花宰相     本井 英

わけもなく立夏がうれしかりしころ

磨硝子つつじの(アケ)を伝へたる

夏潮の碧きに飽きず章魚を釣る

令和元年五月との魚拓かな

入港の漁船を卯波追ひ止めず




風呂をいただき麦飯にもよばれ

蚕豆をただ焼くだけの馳走にて

地の底に清滝川や若楓

蕗原を水音伝ひをりにけり

蕗原もありてかしこき辺りかな





隅田川を眼下の暮らし業平忌

在五中将と慕はれたる忌日

葬儀社のてきぱき動く薄暑かな

栃が咲きニセアカシヤが慕ひ咲き

つばくらめ青と見え紫と見え




泥波の起こりては止み代を搔く

代搔の仕上げ対角線にかな

届きをる早苗撫づれば心足る

芭蕉玉巻くきゆつきゆつと音しさう   
     
百官の居ならぶどれも花宰相

主宰近詠(2019年7月号)

磯遊  本井英

一病を養つてをる朝寝かな

朝桜くまなく照らし出されたり

春昼や木魚の音のゆるみ止み

猫駆ける音のをちこち花の館

渚まではみ出して蝶舞へるかな



磯遊パンツは疾うに濡れほとび

尼さまも足袋を脱がれて磯遊

英霊の叔父さんのこと磯遊

母さんの匂ひのタオル磯遊

復活祭の御堂やいまも畳敷き


六義園 

庭の春にはかに山路めくところ つつがの身ながら今日あり葱坊主 はるかなる海を見届け遅桜 デニム屋に木香薔薇の咲きさかり 熊蜂の浮かびをりけり弾けけり



羅生門かづらしやべりづめの女

青大将をるやいつものいぼたの木

貝母の実とはかくかくや触れてもみ

水芭蕉の倒れし白を水跨ぐ

海月大人よろづてきぱきとは行かぬ

主宰近詠(2019年6月号)

分袂といふこと 本井 英

春寒や薄く冷たく猫の耳

福寿草ひらきしぶるといふことも

水たまり広がつてゐる春田かな

春の雨マルチシートをしとど打ち

二三戸はありけむ野梅咲くばかり




啓蟄の地へ下ろしたるユンボかな

地虫出づる日にして灰の水曜日

立ち込みて腰の高さの蜆舟

鋤簾の柄肩に食ひ込み蜆搔く

着陸機の腹過ぎてゆく蜆採




文士村とて似顔絵もあたたかし

イクメンを見守つてをるミモザかな

島渡船卒業式の来賓を

卒業式了へてそのまま来し墓前

分袂といふことのあり蜷の道




青といふ色を蔵して土筆の穂

芹の水見下ろすばかり病後の身

麗かに五馬力ほどか耕耘機

呉羽山春野の皺のやうにかな

鷺の嘴刺さる刹那の春の水