主宰近詠(2020年11月号)

湖の秋     本井英

仙人掌のやうに()てるも雲の峰

枝移るときの羽色油蟬

川蜻蛉かなもつれてはいこひては

なつかしの蚊帳吊草の茎の(カド) 

花茄子のたいらの花の下向きに



にがうりと呼びて黄色く熟れさせて

枝豆を畦に面白半分に

根の生えしごとく夏山揺るがざる

夏川の痩せて浅きやもくづがに

その(ヒト)の座したれば佳き緑蔭に



雪渓のひとかけこびりつく富岳

茶畑へ大水撒きをしてをりぬ

単線や臭木の丘にさしかかり

稲田道三方原をひた目ざし

サイクリングロードを歩く湖の秋



湖浪のたためる音と鉦叩と

素麺流しの割竹の乾きをり

立ち止まるたび秋風に抱かるる

一輛車あらは夏川渡るとき

半周を車窓に座しぬ湖の秋

主宰近詠(2020年10月号)

痩身の杞陽  本井 英

日がさして道なま乾き道をしへ

道をしへ腹の鎧の真紫

たつぷりの式台に置く円座かな

跫音や円座かかへて沙弥来たる

痩身の杞陽を載せて円座かな



透析のなき一日を甚平着て

定位して尾の揺り方の岩魚たり

泥鰌鍋暖簾の白を誇るかに

言の葉や五月雨傘のうちを出ず

スリッパやゴキブリなどて逃すべき



舟虫の付和雷同といへる知恵

梅雨寒の撫でてあたたか猫の腹

今日ぽかとひらきて布袋草の花

老いてさらに香をこそ愛づれ蚊遣香

螢など舞ふべし蜷の水も澄み



萱草の蕾やすでに花の色

畦草もときをり引きて田草取

足を抜くときの泥音田草取

茂なか画眉鳥役者然とをり

地滑りをしたり露草のせしまま

主宰近詠(2020年9月号)

生かされて     本井 英

ひばかりの胴のほそぼそ水中に

ひばかりの色の淡さもいとけなや

ひばかりのつるりと小さき幼な顔

木耳の重さずしりと布袋

木耳も売つてをるなり滝見茶屋



毛虫焼けば数珠繫がりに墜ちにけり

ますらをの白や泰山木の花

青葉山躙りそめたり解纜す

切り裂かれ夏潮白き舳かな

しらしらと吹きひろごりぬ青田風



青田風安房もここらは米どころ

槇垣をつらね海水浴の村

富山(トミサン)の双耳は霧に時鳥

廃 てられて百合なほ咲けるハウス脇

夏潮の微塵にくだけ真白にぞ



青嵐沼面へ叩きつけにけり

念をおすやうに鶯老を啼く

緑蔭の径また次の水音へ

夏燕沼面を蹴りて跳ね上がり

生かされて護られて炎天に立ち

主宰近詠(2020念8月号)

英傑のあり  本井英

定期便着きたる島も夏立てる

桐の花散れる音とてありにけり

にはたづみ乾きしあたり桐落花

八箇ぴつたりお持たせの柏餅

ほとりほとり花降らするは禅寺丸




黄菖蒲の黄の気の置けぬ黄なりけり

をとつひの夜中の今朝のほととぎす

漁港より葉桜の道丘へ伸び

楠若葉湧いておでこがくつつきさう

鱚釣のボート随分沖に浮く




蛸壺の紐ごはごはや波止薄暑

青葉潮沖の生簀は八角形

青葉潮敷く洗岩に暗岩に

青葉潮を小さく切りとり船溜り

浜大根の実とはどこやら丁呂木(チヨロギ)めき




船虫や評定もなく集ひ散り

遁走の船虫様子見の船虫も

船虫に英傑のあり凡夫あり

横転の海月やさらに反転す

港内の夏潮に棲むソラスズメ

主宰近詠(2020年7月)

みどりの日    本井 英

双蝶にして競ふなる睦むなる

翡翠の行衛まだ見ゆなほ見ゆる

村道に理髪店あり海芋咲く

村道が尽きてそま道落椿

つんつんと紫蘭のつぼみ槍なせる



花芽はやこしらへてある立葵

桑の実のとげとげしさや色いまだ

紫菀萌ゆはらりと驢馬の耳のごと

飴のやうに歪みたる葉やチューリップ

夢の尾のほそり失せゆく朝寝かな



逝く春の絵画館とは窓すくな

そよぎつつひとつばたごの花盛り

スケボーの音のひねもす春惜しむ

入り乱れたる白花や二輪草

鈴蘭の一茎ばかり今年また



へろへろと紫菀若葉や尺余なる

惜しむべき春としもなく過ぎゆくよ

叶はざることのみ多き春は逝く

鉄線の花の切つ先しわみそめ

海ありて松ヶ枝ありてみどりの日