主宰近詠(2021年5月号)

青き踏む      本井 英

鵜の黒の春水潜りゆく迅さ

温みきし水を愉しと鯉の鰭

春浅しSECOMと貼りて薬師堂

路地を抜け路地に入れば梅早し

日の底に天道虫の色うるむ



耕してあるよポットも置いてある

干し若布気さくに頒けてくれにけり

初花とも返り花とも雪柳

紅梅や小腰をすこし矯めて咲く



     

小諸城 三句

穴城に降りけぶりたり木の芽雨 春寒の黒門橋や門は失せ 四海浪売店も春寒に閉づ



見ゆるかぎり全開したり犬ふぐり

下萌のはじまつてをり山羊つなぎ

丘は鳴り海は響動もし三千風忌

梅林を歩すほどに膝ほぐれゆく



梅ケ枝の影が眼白の胸元に

白梅に伸べる眼白の頸みどり

梅ケ枝の影を離るる鳥の影

老けてゆく妻このもしや青き踏む

主宰近詠(2021年4月号)

胴を輪切りに 本井 英

恵方とて島影ゆるぎなかりけり

柳箸二膳は淋しからざるや

ことしより二病息災寝正月

土間隅は凍つてをりぬ嫁が君

灯して仏間ゆゆしや嫁が君



癪に障ることのかず〳〵嫁が君

ひくひくと鼻が可愛いや嫁が君

人日や胴を輪切りに診る検査

寒垢離へ裸電球たどりゆく

寒垢離の欅のやうな胴まはり



寒垢離の行著ひつたり貼りつける

寒垢離や一口(ヒトフリ)焠ぐ志

寒垢離を済ませそれぞれ闇に消ゆ

峰寺のにぎはふとなく初薬師

祈ぎごとはもとよりひとつ初薬師



ヘリが吊るぐるぐる巻きの凍死体

凍死救ひし大犬の物語

乗り換へし膝に日射しや梅探る

老いぬれば指がぎしぎし梅探る

探梅の自分土産の柚餅子かな

主宰近詠(2021年3月号)

姫沙羅まじり  本井英

お醬油に潤目鰯の脂浮く

船火事の船首煙の外にあり

船火事の煙浪間をただよへる

火事の火が裏山にとりつきにけり

のめり込むやうに潜きてホシハジロ



眠る山の胎へ飛びこみわが車窓

枯れ枯れて姫沙羅まじり沼ほとり

日の当たる丘の暮らしや蒲団干し

草枯に切り幣の散らかれるかな

子等喚声落葉溜りの深ければ



雁木出はづれて河風横なぐり

手の窪に油へ放つまでの牡蠣

わが生に牡蠣船楽しかりし夜も

蒲公英のロゼットはやも落葉中

寒禽のこぼるる仰ぎ渓の径



渓径や笹鳴まじり啄く音

登りつめれば逆光の冬紅葉

鐘低う吊りある紅葉明りかな

ワイン色なしたる落葉溜りある

凪空の青へ突きあげ花アロエ

主宰近詠(2021年2月)

辿ればやがて 本井 英

枯れてなほ屯を解かず紫菀らは

枯るるとは乾きゆくこと紫菀叢

葉も茎も花びらも枯紫菀かな

葉はなえて茎にまとはり枯紫菀

いづこともなく紫や枯紫菀



枯紫菀空仰ぐこと疾うにやめ

来る風をいとふのみなる枯紫菀

枯紫菀に頰をよせたり語らまく

枯紫菀焚いてくれよと身じろげる

枯紫菀へ介錯の庭鋏かな



  俳誌「稲」へ
稔る色たがへながらも稲筵

野尻湖のさびしき頃の一茶の忌

椋鳥(ムク)々々と蔑まれつつ一茶の忌

老といふ敵手強(テゴワ)しよ一茶の忌

人の世の醜きことも一茶の忌



落葉かさなしてゆゆしき土塁かな

今日の雨に草枯さらにはらばへる

嵐電に場末とてあり夕時雨

時雨つつ妓楼の名残かすかにも

時雨つつ辿ればやがて美濃ざかひ
◯特殊標記 (1)ルビ 滴りや 山の心斯く (2)詞書      

博多二句

(3)添字      干し上げて若布本 ありにけり  or       一谷戸の奥の奥まで菖蒲園 (4)長音等記号      〳〵 〴〵 〱 〲

主宰近詠(2021年1月号)

無実顔    本井 英

秋耕の一鍬ごとに土香り

岸釣の釣るれば妻の駆け寄れる

おしろいは実を零したり萼残り

待ちまうけをれば尾花に風いたる

泥まみれなるものも朴落葉かな



女郎蜘蛛夫は無実顔にをり

客寄せのコスモス畑頃を過ぎ

スルタンの宝珠のやうや藪茗荷

鵙はひかへめ画眉鳥聴こえよがしに

トンネルの中ほど高し秋の風



浜砂に消ゆる小流れ暮の秋

街の秋潮路橋とは良き名もて

秋風に船首いかめしタグボート

万両五六亭々といふ姿にも

白マスク黒マスクはた顎マスク



煽つたび陽射し掬ひて芭蕉葉は

句碑そこに建つがたのしみ小鳥来る

緋毛氈の緋に新旧や秋日和

咲きつれて茶の花姸を競ふなく

茶の花や不平不満の蕊を吐き