主宰近詠(2020年3月号)

眠る見ゆ 本井 英

埋火をせせりて火箸重きこと

埋火やもの問ひたげの身柱元(チリケモト)

放つもの一毫もなし枯尾花

昨今は大鷭まじる浮寝かな

枯葉敷きつめて轍のかくれけり




径となす銀杏落葉を掃き分けて

海をへだてて富山(トミサン)の眠る見ゆ

生牡蠣の香をこそ愛づれ卓布白

牡蠣船の行灯小さく河岸に置き

隈笹の隈美しや十二月




笹鳴と聞こゆる青鵐かも知れぬ

日だまりの落葉だまりのよく香り

大磯鴫立庵 二十三世庵主となる
庵を守ることとなりたる年を守る 荻は枯れがれお数珠玉真白にぞ 鰭煽るは楽しからんや鯉の冬




こなごなの銀杏落葉ぞ色はなほ

碑の裏の落葉深きを歩きけり

キャンパスを待降節の人往き来

浮寝鳥吹かれぶつかることのなき

この日頃落葉しなやか踏みてしづか

主宰近詠(2020年2月号)

これも枯れ    本井 英

ディズニーの見えてはるかや鯊の潮

知らぬ誰彼からも祝はれ七五三

隠居所も更地となりて梅擬

帰り道もう真つ暗や薬掘

大根を洗ふそばから一輪車



船宿の冬日だまりに猫ちぐら

松乃湯のけむり小春の空を攀づ

ビル影が伸びはじめたり浮寝鳥

柴漬に近づく小舟犬載せて

船外機止め柴漬に近づける



柴漬や艫にラジオの鳴れるまま

零すてふほどもなき初時雨かな

闘病の一時帰宅の冬紅葉

冬浪の甘咬みなすは和賀江島

冬浪のくだけ霧らひて虹を負ふ



掃き寄すれば煙ためらふ落葉焚

番鴨うなづく仕草くりかへし

流れつつ喫水浅く浮寝鳥

東京の時雨と呼ぶはこの暗さ

あれやこれ枯れ行李柳(コリヤナギ)これも枯れ

主宰近詠(2020年1月号)

 文反故    本井 英

鶺鴒のたまさか映る忘れ潮

チェンソーの一つの音に島の秋

流れ来て川霧すやり霞なす

一人干す一人のものや葉鶏頭

夜寒さに目を遊ばする文反古(フミホウグ)



猫にお手教へてをれば夜ぞ長き

ピザ釜を据ゑて疎林や小鳥来る

オクラ畑長けさらぼへて花をなほ

秋風の沼をへだてて力芝

観察窓初鴨がなと覗きみる



紫陽花の実となりそれも枯るるころ

追へばやや急ぐそぶりに穴まどひ

あちこちにホース綰ねて園の秋

花ながら雨の茶垣の整はぬ

蔓葉はらひて藷掘りを待つばかり



虫の音と雨音とあひ縫ふごとし

秋潮を熨し自衛艦一〇五

千両の紅の過渡期を美しと

真青なることも佳きかな真葛

見よがしに咲き連ねたる杜鵑草

主宰近詠(2019年12月号)

稲架立てる場所    本井 英

娘等に流行るは手持ち扇風機

白芙蓉白よりほかの色知らず

いつの間に蜩の熄みわたりをり

初潮の大きく退りゐる渚

ただ高く翔るばかりぞ秋燕



丘をまいて御最期川は浅く澄み

 

浜離宮 二句

いま船で着きし人らに庭の秋 潮浅し小鯊あつち向きこつち向き 父祖の地の根津のここらの秋祭 クロネコの自転車便に辻の秋



五十年棲めばわが町鰯雲

鰯雲大きく破れをるところ

蔓の影くつきり置いて通草かな

どんぐりの幼き色の敷きこぼれ

園内を檄の駆けたる曼珠沙華



知つてゐて雀蜂と目の合はぬやう

小諸俳句田圃

この稲田風のげんこつ喰らひたる 稲架立てる場所をまづ刈り取りにけり 稲架裾を楽しくくぐり蝶黄なる 露草の実のぷつちんの苞がくれ

主宰近詠(2019年11月号)

花野にあり 本井 英

片陰に踏み込めば風流れをり

法師蟬の声調にある折り返し

青ければ青を誇りて金鈴子

藻の花や養鱒場に棲む家族

見えてゐて小鯊ぞすばしこかりける



   

石ノ湯稽古会 十五句

鮠涼し流れてはまた遡り 作り滝聞いてをるなり訃音胸に すでにして地啼にもどり露葎 生きてゐるだけで(オン)の字この花野 乱雑にして虎杖の花盛り




日が射せば木道秋のぬくもりに

竜胆の想ひ出どれも我若き

懸巣かしまし枝うつり樹をうつり

餌を追うて岩魚が走り下るとき

花野囲みて熊・羚羊の棲める森




岩魚沢とは水落とし水落とし

花野にあり(ハフリ)に参じ得ぬままに

羚羊の声のヒューンと露けしや

熊笹は硯のごとく露を溜め

水澄めば(アケ)を帯びたり鮠の鰭