主宰近詠」カテゴリーアーカイブ

主宰近詠(2024年6月号)

 礒鵯の唄        本井 英

礒鵯が讃へて花の朝かな

朝桜かなひいやりと咲きつらね

日の色に染められてをる朝桜

手術することを選びて朝桜

訪ひて椿の島の椿餅

若きらが(ソボ)(クラ)へり椿餅

椿餅猫の温さの膝にあり

東京が近づく花の車窓かな

汐引きし橋杭に貼る花の屑

花房に重さありけり掌でつつみ


捨て積みの蛸壺に蠅生まれつつ

翅華奢に生まれたてなる蠅ならめ

独居の灯ぽつと八十八夜かな

春水がしゆつと小便小僧より

瞳孔をこじ開くる赤赤躑躅

春風や重箱堀に吹きたまり

大鷭も機嫌良からんキョンと啼き

二輪草仕舞ひの日々の雨の今日

枯れ色の添ひつつ貝母潰えつつ

朝毎の礒鵯の唄夏ちかし

主宰近詠(2024年5月号)

春水舌を  本井 英

民家園のほまち仕事の接木鉢

春田なる白鳥向きをばらばらに

垂るる雲に頭つつかへ斑雪山

雛飾足裏冷たく拝見す

雛道具に怠るまじき琴棋書画

うすら日に浮き上がりくる雪景色

雲中に日の明るさや揚雲雀

昇りつめてじれてをるなり揚雲雀

落椿をお狐さまの()にちよんと

岬径のだんだん高し赤椿


芍薬の芽立ち仏の座が囃し

鷹部屋に鷹の剝製春寒し

引き堀の土手に貼りつき金瘡小草(キランソウ)

貝母咲く高さを風の流るるよ

ちりちりと蓬ぞ摘めば楽しからむ

父と子に脂魚(ムツゴ)が釣れて春の風

鴨は背の春水の珠ふり落とし

青柳に新幹線の橋はるか

河上の連山霾に閉ざされて

崖下の春水舌を垂れやまず

主宰近詠(2024年4月号)

胴の間に   本井 英

島裏を訪ふは久々日脚伸ぶ

姉妹ふけて母似や桜餅

鎌倉より北鎌倉は春浅く

気動車の黄色焼野にさしかかり

ヘルメット配り野焼の人数かな

枯蓮を渫ひひきずり上げてある

浅春の神門に彫る梅と牛

梅の坂宮地芝居のありし世も

会釈してお針子仲間針供養

針供養に連ぬる傘の色いろいろ


蕗の薹ひねり上げては摘みすすめ

着地してはづむ烏や草萌ゆる

胴の間に若布つみあげ戻りくる

紅梅の楉の花のさらに濃き

奏でむと指でなぶりて花馬酔木

犬ふぐり群るるともなく健やかに

恋猫のいつまで留守の猫ちぐら

東風ゆたかなりタラップを下りゆけば

東風の野を舎人ライナー疾走す

満腔に東風ぞ永久気管孔

主宰近詠(2024年3月号)

御慶述ぶ  本井 英

生きてゐることを刻々初明り

着古してヒートテックや今朝の春

からうじて電気喉頭御慶述ぶ

虎御前(トラゴゼ)に西行さんに御慶かな

スマホごし老の御慶を高らかに

猿曳や茶髪ですこし悪さうで

林道のゲートを開き山始

凍鶴を遠くへだてて駐車場

凍鶴を一 時照らす入日かな

枯るるもの同志巻きあひ摑みあひ


著ぶくれて膝だらしなく歩むかな

楷の木の由来謹読著ぶくれて

「仰高」の扁額ゆゆし園は枯れ

枯るる丘の裾をたどりて南武線

寒の日に枝よく光る梨畑

寒の晴明日は姉を見舞はむか

高校生溢るるホーム日脚伸ぶ

庵室に閉門時間日脚伸ぶ

待春の武蔵総社は北面す

川へだて投げ合ふ言葉春近み
◯特殊標記 (1)ルビ 滴りや 山の心斯く (2)詞書

博多二句

(3)添字 干し上げて若布本 ありにけり or 一谷戸の奥の奥まで菖蒲園 or (4)長音等記号 〳〵 〴〵 〱 〲

主宰近詠(2024年2月号)

忘れめや    本井 英
     

鴛鴦の夫置いて水面は砥の如し

瑠璃と仰ぎ玻璃と見下ろし雨氷かな

枯木山なる妻の墓母の墓

ビル影に入ればひいやり冬麗

錨泊の黒船のごと浮寝かな

曳波にいちいち応へ浮寝鳥        

コンビニの入口に売る大根かな

冬帝の遣はしめなるはたた神

冬帝の蹴散らし止まぬ波濤かな

葛襖ずたずたに枯れわたりたる

ほろほろと落葉だまりに尿そそぐ

沖風にアロエの花の震へ止まず

権五郎神社暫く日向ぼこ

息白く開園前の飼育員

猫砂を買ひ足すことも年用意

ヘリの飛ぶ低さも年の瀬のことと

数へ日の鴫立庵の昨日今日

銀杏落葉微塵にカレー粉のやうに

朴落葉八割ほどはうつ伏せに

忘れめや声失ひし今年のこと