主宰近詠(2020年7月)

みどりの日    本井 英

双蝶にして競ふなる睦むなる

翡翠の行衛まだ見ゆなほ見ゆる

村道に理髪店あり海芋咲く

村道が尽きてそま道落椿

つんつんと紫蘭のつぼみ槍なせる



花芽はやこしらへてある立葵

桑の実のとげとげしさや色いまだ

紫菀萌ゆはらりと驢馬の耳のごと

飴のやうに歪みたる葉やチューリップ

夢の尾のほそり失せゆく朝寝かな



逝く春の絵画館とは窓すくな

そよぎつつひとつばたごの花盛り

スケボーの音のひねもす春惜しむ

入り乱れたる白花や二輪草

鈴蘭の一茎ばかり今年また



へろへろと紫菀若葉や尺余なる

惜しむべき春としもなく過ぎゆくよ

叶はざることのみ多き春は逝く

鉄線の花の切つ先しわみそめ

海ありて松ヶ枝ありてみどりの日

主宰近詠(2020年6月)

ひとりの磯遊  本井 英

料峭や病禍地を這ひ海に浮かび

今年また貝母の場所に貝母咲き

下萌の香り充ちたり暁の闇

浜大根の花のむらさき刷毛でちよと

岩跳んで老のひとりの磯遊




雨の輪の明るさにある浮巣かな

浮巣降りたちまち潜き鳰

かづきては交替しては鳰の親

春雨のこまかや保与を降りつつみ
   ※「保与」は「寄生木」の古名

日向水木のちやうちん袖のこぞり咲く



 平杉菜の青を盛り均し

ちりめんのやうに囀峡に充ち

水筋を逸るるあたはず蜷の道

蝌蚪の尾がたてては流し泥けむり

蝌蚪の尾のわらわら揺れてはたと止み




蝌蚪のくろ雲のごとくにわだかまり

昼からは風が走りてつくし原

新旧の養蜂箱を草萌に

蜂うかぶ養蜂箱のあはひかな

こぼれゐて敷くにはとほき落椿

主宰近詠(2020年5月号)

綾をほどきて    本井英

綾なして綾をほどきて芹の水

空映すところもありて芹の水

野の風にすこし味濃き稲荷寿司

梅林はいますつぽりとビルの陰

梅林やわが影法を連れ歩き



降りかかる雨粒若し梅は老い

紅梅の花弁貼りつく雨の幹

海苔採りの舟よと沖を指させる

クルーザーの機走のひびき湾の春

あやにくに雨の御堂や針供養



溶岩垣ののぞきはじめし雪間かな

犬来てはかならず嗅ぎて雪間草

西行を慕ふは誰も三千風忌

唱へみて心地よき音クロッカス

菜の花の黄に分け入りて眼を細う



仏の座菜の花畑の縁に咲く

白椿日陰の風も心地よく

手びさしの右手が疲れあたたかし

二 月の菖蒲田乾ききつたりな

梅 香に駐めてユンボの昼休み

主宰近詠(2019年4月号)

人工ビーチ  本井 英

食積や駅伝テレビ点けつぱなし

佳人かな破魔矢の鈴のかそけさに

駅舎から手洗所まで雪を踏む

二両分のホームの雪を踏んでおく

元勲の墨痕淋漓避寒宿



本邸に寄らず避寒の地へもどる

ジオラマのやうな漁港や避寒の地

枝影の地にやはらかや日脚伸ぶ

別れた者同士で暮らし日脚伸ぶ

日はうすうす風の無き日の都鳥



デイゴ枯れ〳〵て人工ビーチかな

大鷭と鴨と仲良くするでもなく

イケメンを自認してをる尾長鴨

運河いま寒の底なる褐色(カチンイロ)

水仙にブロック塀も古びたる



霜どけに靴底のうち重なれる

初場所の華やぎテレビ場面にも

園枯れて沼のかたちのあからさま

靴先でさぐりて蕗の薹もがな

少しおだまり日だまりの寒牡丹

主宰近詠(2020年3月号)

眠る見ゆ 本井 英

埋火をせせりて火箸重きこと

埋火やもの問ひたげの身柱元(チリケモト)

放つもの一毫もなし枯尾花

昨今は大鷭まじる浮寝かな

枯葉敷きつめて轍のかくれけり




径となす銀杏落葉を掃き分けて

海をへだてて富山(トミサン)の眠る見ゆ

生牡蠣の香をこそ愛づれ卓布白

牡蠣船の行灯小さく河岸に置き

隈笹の隈美しや十二月




笹鳴と聞こゆる青鵐かも知れぬ

日だまりの落葉だまりのよく香り

大磯鴫立庵 二十三世庵主となる
庵を守ることとなりたる年を守る 荻は枯れがれお数珠玉真白にぞ 鰭煽るは楽しからんや鯉の冬




こなごなの銀杏落葉ぞ色はなほ

碑の裏の落葉深きを歩きけり

キャンパスを待降節の人往き来

浮寝鳥吹かれぶつかることのなき

この日頃落葉しなやか踏みてしづか