主宰近詠」カテゴリーアーカイブ

主宰近詠(2024年4月号)

胴の間に   本井 英

島裏を訪ふは久々日脚伸ぶ

姉妹ふけて母似や桜餅

鎌倉より北鎌倉は春浅く

気動車の黄色焼野にさしかかり

ヘルメット配り野焼の人数かな

枯蓮を渫ひひきずり上げてある

浅春の神門に彫る梅と牛

梅の坂宮地芝居のありし世も

会釈してお針子仲間針供養

針供養に連ぬる傘の色いろいろ


蕗の薹ひねり上げては摘みすすめ

着地してはづむ烏や草萌ゆる

胴の間に若布つみあげ戻りくる

紅梅の楉の花のさらに濃き

奏でむと指でなぶりて花馬酔木

犬ふぐり群るるともなく健やかに

恋猫のいつまで留守の猫ちぐら

東風ゆたかなりタラップを下りゆけば

東風の野を舎人ライナー疾走す

満腔に東風ぞ永久気管孔

主宰近詠(2024年3月号)

御慶述ぶ  本井 英

生きてゐることを刻々初明り

着古してヒートテックや今朝の春

からうじて電気喉頭御慶述ぶ

虎御前(トラゴゼ)に西行さんに御慶かな

スマホごし老の御慶を高らかに

猿曳や茶髪ですこし悪さうで

林道のゲートを開き山始

凍鶴を遠くへだてて駐車場

凍鶴を一 時照らす入日かな

枯るるもの同志巻きあひ摑みあひ


著ぶくれて膝だらしなく歩むかな

楷の木の由来謹読著ぶくれて

「仰高」の扁額ゆゆし園は枯れ

枯るる丘の裾をたどりて南武線

寒の日に枝よく光る梨畑

寒の晴明日は姉を見舞はむか

高校生溢るるホーム日脚伸ぶ

庵室に閉門時間日脚伸ぶ

待春の武蔵総社は北面す

川へだて投げ合ふ言葉春近み
◯特殊標記 (1)ルビ 滴りや 山の心斯く (2)詞書

博多二句

(3)添字 干し上げて若布本 ありにけり or 一谷戸の奥の奥まで菖蒲園 or (4)長音等記号 〳〵 〴〵 〱 〲

主宰近詠(2024年2月号)

忘れめや    本井 英
     

鴛鴦の夫置いて水面は砥の如し

瑠璃と仰ぎ玻璃と見下ろし雨氷かな

枯木山なる妻の墓母の墓

ビル影に入ればひいやり冬麗

錨泊の黒船のごと浮寝かな

曳波にいちいち応へ浮寝鳥        

コンビニの入口に売る大根かな

冬帝の遣はしめなるはたた神

冬帝の蹴散らし止まぬ波濤かな

葛襖ずたずたに枯れわたりたる

ほろほろと落葉だまりに尿そそぐ

沖風にアロエの花の震へ止まず

権五郎神社暫く日向ぼこ

息白く開園前の飼育員

猫砂を買ひ足すことも年用意

ヘリの飛ぶ低さも年の瀬のことと

数へ日の鴫立庵の昨日今日

銀杏落葉微塵にカレー粉のやうに

朴落葉八割ほどはうつ伏せに

忘れめや声失ひし今年のこと

主宰近詠(2024年1月号)

商人は継がず   本井 英

照葉いま水陽炎のとらへたる

穭田となりて家墓あからさま

今年はも夜風あたたかお酉さま

きらきらと黄やら赤やら熊手かな

商人(アキンド)は継がず老いけり酉の市

枯るる野の消えて車内の映りそめ

脚立から降りて見上げて松手入

松手入枝をゆすつて終りけり

掌の温みのこる瓢の実受けとりぬ

寺領なる幾百張りの女郎蜘蛛


柊の花を伝ひて雨雫

酔ひ醒めや真夜の時雨に虹かかり

なだらかに海へ傾き大根畑

風が出て漁に出ぬ日は大根引く

子が吐きしミルクの匂ひ冬暖か

地にちかく地を見下ろして茶の花は

冬薔薇に沿うてどりこの坂曲がる

防風の茎の赤さも冬に入る                                   

白といふ色の豊かさ桃吹けり

冬浪のかそけき日々の冬薔薇    

主宰近詠(2023年12月号)

隠さうべしや     本井 英

影躍るロールカーテン小鳥来る

河床の真闇をたどり鰻落つ

涯もなき旅路をかかへ鰻落つ

殺生の果ての旅路へ落鰻

戦没者墓苑の桜紅葉かな

お塔婆を書くも日課や万年青の実

ひそひそと叔父の用談万年青の実

併走の列車の灯り秋の暮

この雨に傾がざるなき紫菀かな

本店の「すや」の二 文字栗の秋


稻雀帳のやうに降りるとき

ここいらに国府とてあり草紅葉

好き漢なるよ「懸巣」と綽名され

女郎蜘蛛揺られながらも躙るなく

おとろひを隠さうべしや男郎花

浮かび飛ぶ蜂雀の吻見ゆるかな

虹の輪の大きく欠けてゐるあたり

朝虹や噴き出すやうに地より立ち

沖空のまたまツ黒や時雨れんと

穭びつしり足下より遥かまで