主宰近詠(2020年9月号)

生かされて     本井 英

ひばかりの胴のほそぼそ水中に

ひばかりの色の淡さもいとけなや

ひばかりのつるりと小さき幼な顔

木耳の重さずしりと布袋

木耳も売つてをるなり滝見茶屋



毛虫焼けば数珠繫がりに墜ちにけり

ますらをの白や泰山木の花

青葉山躙りそめたり解纜す

切り裂かれ夏潮白き舳かな

しらしらと吹きひろごりぬ青田風



青田風安房もここらは米どころ

槇垣をつらね海水浴の村

富山(トミサン)の双耳は霧に時鳥

廃 てられて百合なほ咲けるハウス脇

夏潮の微塵にくだけ真白にぞ



青嵐沼面へ叩きつけにけり

念をおすやうに鶯老を啼く

緑蔭の径また次の水音へ

夏燕沼面を蹴りて跳ね上がり

生かされて護られて炎天に立ち

主宰近詠(2020念8月号)

英傑のあり  本井英

定期便着きたる島も夏立てる

桐の花散れる音とてありにけり

にはたづみ乾きしあたり桐落花

八箇ぴつたりお持たせの柏餅

ほとりほとり花降らするは禅寺丸




黄菖蒲の黄の気の置けぬ黄なりけり

をとつひの夜中の今朝のほととぎす

漁港より葉桜の道丘へ伸び

楠若葉湧いておでこがくつつきさう

鱚釣のボート随分沖に浮く




蛸壺の紐ごはごはや波止薄暑

青葉潮沖の生簀は八角形

青葉潮敷く洗岩に暗岩に

青葉潮を小さく切りとり船溜り

浜大根の実とはどこやら丁呂木(チヨロギ)めき




船虫や評定もなく集ひ散り

遁走の船虫様子見の船虫も

船虫に英傑のあり凡夫あり

横転の海月やさらに反転す

港内の夏潮に棲むソラスズメ

主宰近詠(2020年7月)

みどりの日    本井 英

双蝶にして競ふなる睦むなる

翡翠の行衛まだ見ゆなほ見ゆる

村道に理髪店あり海芋咲く

村道が尽きてそま道落椿

つんつんと紫蘭のつぼみ槍なせる



花芽はやこしらへてある立葵

桑の実のとげとげしさや色いまだ

紫菀萌ゆはらりと驢馬の耳のごと

飴のやうに歪みたる葉やチューリップ

夢の尾のほそり失せゆく朝寝かな



逝く春の絵画館とは窓すくな

そよぎつつひとつばたごの花盛り

スケボーの音のひねもす春惜しむ

入り乱れたる白花や二輪草

鈴蘭の一茎ばかり今年また



へろへろと紫菀若葉や尺余なる

惜しむべき春としもなく過ぎゆくよ

叶はざることのみ多き春は逝く

鉄線の花の切つ先しわみそめ

海ありて松ヶ枝ありてみどりの日

主宰近詠(2020年6月)

ひとりの磯遊  本井 英

料峭や病禍地を這ひ海に浮かび

今年また貝母の場所に貝母咲き

下萌の香り充ちたり暁の闇

浜大根の花のむらさき刷毛でちよと

岩跳んで老のひとりの磯遊




雨の輪の明るさにある浮巣かな

浮巣降りたちまち潜き鳰

かづきては交替しては鳰の親

春雨のこまかや保与を降りつつみ
   ※「保与」は「寄生木」の古名

日向水木のちやうちん袖のこぞり咲く



 平杉菜の青を盛り均し

ちりめんのやうに囀峡に充ち

水筋を逸るるあたはず蜷の道

蝌蚪の尾がたてては流し泥けむり

蝌蚪の尾のわらわら揺れてはたと止み




蝌蚪のくろ雲のごとくにわだかまり

昼からは風が走りてつくし原

新旧の養蜂箱を草萌に

蜂うかぶ養蜂箱のあはひかな

こぼれゐて敷くにはとほき落椿

主宰近詠(2020年5月号)

綾をほどきて    本井英

綾なして綾をほどきて芹の水

空映すところもありて芹の水

野の風にすこし味濃き稲荷寿司

梅林はいますつぽりとビルの陰

梅林やわが影法を連れ歩き



降りかかる雨粒若し梅は老い

紅梅の花弁貼りつく雨の幹

海苔採りの舟よと沖を指させる

クルーザーの機走のひびき湾の春

あやにくに雨の御堂や針供養



溶岩垣ののぞきはじめし雪間かな

犬来てはかならず嗅ぎて雪間草

西行を慕ふは誰も三千風忌

唱へみて心地よき音クロッカス

菜の花の黄に分け入りて眼を細う



仏の座菜の花畑の縁に咲く

白椿日陰の風も心地よく

手びさしの右手が疲れあたたかし

二 月の菖蒲田乾ききつたりな

梅 香に駐めてユンボの昼休み