主宰近詠(2019年8月号)

花宰相     本井 英

わけもなく立夏がうれしかりしころ

磨硝子つつじの(アケ)を伝へたる

夏潮の碧きに飽きず章魚を釣る

令和元年五月との魚拓かな

入港の漁船を卯波追ひ止めず




風呂をいただき麦飯にもよばれ

蚕豆をただ焼くだけの馳走にて

地の底に清滝川や若楓

蕗原を水音伝ひをりにけり

蕗原もありてかしこき辺りかな





隅田川を眼下の暮らし業平忌

在五中将と慕はれたる忌日

葬儀社のてきぱき動く薄暑かな

栃が咲きニセアカシヤが慕ひ咲き

つばくらめ青と見え紫と見え




泥波の起こりては止み代を搔く

代搔の仕上げ対角線にかな

届きをる早苗撫づれば心足る

芭蕉玉巻くきゆつきゆつと音しさう   
     
百官の居ならぶどれも花宰相

主宰近詠(2019年7月号)

磯遊  本井英

一病を養つてをる朝寝かな

朝桜くまなく照らし出されたり

春昼や木魚の音のゆるみ止み

猫駆ける音のをちこち花の館

渚まではみ出して蝶舞へるかな



磯遊パンツは疾うに濡れほとび

尼さまも足袋を脱がれて磯遊

英霊の叔父さんのこと磯遊

母さんの匂ひのタオル磯遊

復活祭の御堂やいまも畳敷き


六義園 

庭の春にはかに山路めくところ つつがの身ながら今日あり葱坊主 はるかなる海を見届け遅桜 デニム屋に木香薔薇の咲きさかり 熊蜂の浮かびをりけり弾けけり



羅生門かづらしやべりづめの女

青大将をるやいつものいぼたの木

貝母の実とはかくかくや触れてもみ

水芭蕉の倒れし白を水跨ぐ

海月大人よろづてきぱきとは行かぬ

主宰近詠(2019年6月号)

分袂といふこと 本井 英

春寒や薄く冷たく猫の耳

福寿草ひらきしぶるといふことも

水たまり広がつてゐる春田かな

春の雨マルチシートをしとど打ち

二三戸はありけむ野梅咲くばかり




啓蟄の地へ下ろしたるユンボかな

地虫出づる日にして灰の水曜日

立ち込みて腰の高さの蜆舟

鋤簾の柄肩に食ひ込み蜆搔く

着陸機の腹過ぎてゆく蜆採




文士村とて似顔絵もあたたかし

イクメンを見守つてをるミモザかな

島渡船卒業式の来賓を

卒業式了へてそのまま来し墓前

分袂といふことのあり蜷の道




青といふ色を蔵して土筆の穂

芹の水見下ろすばかり病後の身

麗かに五馬力ほどか耕耘機

呉羽山春野の皺のやうにかな

鷺の嘴刺さる刹那の春の水

主宰近詠(2019年5月号)

かけがへのなき人々     本井英

白菜の畝に居並び首 級(シルシ)めき

紫に紅に下萌えにけり

犬ふぐり拗ね者もなく咲きそろひ

知らぬ人が春一番と言つて過ぐ

池普請途中で抛りだしてあり




この里に幾観世音春時雨

八橋は立ち入り禁止雪残り

春泥を跨がんとする膝と腰

磯原におつかぶされる余寒かな




夏潮新年会 二句

旧正をかけがへのなき人々と 春の人かな名乗り合ひ笑まひ合ひ 犬ふぐりおほよそ閉ぢて雨近し 離り見て梅林は色やはらかき 雨の糸受け入れてをる古巣かな




雨が打ちはじめ白梅散りはじめ

雨に濡れてさらに明るし花菜畑

花菜畑咲きむらあるは一樹ゆゑ

名草の芽よろこぶほどの雨注ぐ

モノレール出発あたり霞みつつ

福寿草の黄色のどこか緑おび

主宰近詠(2019年4月号)

春を思はしむ   本井英

足裏にひつつく床や寒稽古

ホワイエにダンス部の寒稽古かな

寒稽古へドアをバタンと出て行きし

犬山稽古会 八句

黄鶺鴒の方ががつしりしてをるよ 三十三才低くか黒く川跨ぐ




鉄橋の吼えては止みて寒の闇

暁の浮寝の陣の黒とのみ

鴨の陣いくつ犬山頭首工

鴨の陣解けと朝日が促すよ

伝令のごと鴨の陣抜け出せる




カンバセ顔にそひてただやう息白し

鴨は鴨鵜は鵜でくらし頭首工

明治村 二句

白いもの落ちて来さうや明治村 寒ざむと三八銃を展示せる 切山椒の色みな春を思はしむ




くすぐりの少し度が過ぎ初芝居

日脚伸ぶ日々を閑散スキー場

出勤のホステスたちに日脚伸ぶ

マフラーに顎をうづめて憎みけり

蛇口ひねれば寒の水棒状に