主宰近詠(2018年10月号)

はまばう・はまごう   本井英

土塊が割れ新藷の赤のいろ

小暗きをさらに下れば氷室跡

氷室口溶岩(ラヴァ)をいかつく積み上げて

片舷にかたむくボート夜光虫

さし入れて五指のかたちに夜光虫




覆ひして大護摩壇や油照

駐車場に朝の体操月見草

貧相な男が佇てる月見草

開ききりて二十幾弁紅蓮

踝の高さにひらき凌霄花




駒草の影を朝日がいま作る

夏潮へと延べあるレール造船所

はまばうの黄のやはらかく新しく

はまごうの咲きひろごりて静かなる

夏蝶や朱の斑を見よと翅ひろぐ




病ひには触れず日焼を褒めくれし

こもろ日盛俳句祭 四句

虚子庵の天井黒し夏の雨 虚子が棲み紅花守りし黴の庵 涼風や改札柵をあふれ吹き 山百合のくだけちらばり嵐あと

主宰近詠(2018年9月号)

稚魚なんだとか   本井 英

木天蓼や谷をへだてて古代杉

紫陽花は瑕瑾なき葉をうち重ね

日傘なほよろづ小ぶりのよろしけれ

夏燕出会ひがしらに追ひ追はれ

蜑路地の顔の高さをつばくらめ




豊島園をつつきり流れ梅雨の川

駅ごとの発車チャイムや梅雨最中

舟虫の追ひおとされて泳ぐなり

水中に風あるごとし目高散る

寝てか醒めてか五月闇知るばかり




花落ちて山梔子はやも五稜なす

睡蓮の白つまらなく黄のいやし

フラワーセンター隅つこの半夏生

老鶯を画眉鳥まぜつかへしたる

吹きおろし来たりてあふれ青嵐




楮の実なりやと問へばさてと答ふ

乾涸らびし蚯蚓を蟻のとがめざる

涼風の恣なり恢復期

四阿の黴の垂木に今日の晴

ブルーギルの稚魚なんだとか涼しげに

主宰近詠(2018年8月号)

氷室への径   本井英

朝日注ぐほどに華やぎ谷若葉

氷室への径の踊子草のころ

雉子の声にはかに近し村はづれ

万緑になほまぎれざり雉子の赤

馳せちがふは軽トラばかり雉子の昼




塗り畦にはや走る罅美しき

代掻くや蓼科山を空の隅

代掻のタイヤの泥のきらきらす

狼藉のやうに子供ら田を植うる

田植にはまじらず捕虫網揮ふ




打ち捨てし谷戸茱萸が生り柿が咲き

磯茨と命けむかなや白く低く

風裏に咲きてやすらか磯茨

洒水の瀧 六句

十薬の丈の長けしも瀧近み 瀧風の果てに揺るるは鴨足草




沢音にかむさりそめし瀧の音

駆け下ることにたゆまず瀧の白

かさね鳴く河鹿に気脈ありにけり

真清水を掬し余命を祈るなり

卯の花やダム湖の景に馴染めざる

主宰近詠(2018年7月号)

旅愁さらなる  本井英

惜春の旅にあり鶏鳴も聞き

芥川荘と(ナヅ)けて籘寝椅子

熊蜂の宙を領して唸りやまず

行く春の笯をあらためてまた(イケ)神饌田(ミ ケ タ)なる代田の水の澄みわたり




選挙カーの声の遠さに夕桜

橋桁をくぐり遊びてつばくらめ

雉啼けば旅愁さらなる朝の窓

朝餉まで躑躅の庭をたもとほり

小綬鶏のさらに遠くで雉の啼く




青蘆の侵入したる売地かな

初心者は初心者向きの波に乗り

乗りくだる崩れはじめてをる波を

サーファーのもんどり打つは常のこと

棲みつきしサーファーの庭芥子の花




気取りなく広き宿庭野蒜生ひ

逗留の日々紫蘭咲き増ゆる日々

紫陽花は対の若葉をうち重ね

河口なる弘法麦の穂ぞ青き

癒えてゆく暮らし日焼けも少しせし

主宰近詠(2018年6月号)

要塞島     本井英

夜桜のひとゆらぎしてをさまりぬ

根治とは信ずることば花の下

旧上巳冷たき雨の止まぬまま

岬めざす車窓に雨の遅桜

ふる雨に木香薔薇の黄やはらか




タグボート溜まりへ春の雨つめた

野鳩せはしく鶯はのびやかに

鶯の近さや姿見まくほり

我が離れば鶯は嚠喨と

鶯の声やトンネル抜くる間も




砲座跡青木の花はみなこぼれ

島に生ひ島の地獄の釜の蓋

要塞の歩廊ちらちら藤散れる

岬風が空へ放つはつばくらめ

反転の燕すばやく翼閉ぢ




鵜の頚の鉤がつき出し春の潮

干潟より要塞島の崖仰ぐ

春濤へぶちかましては渡船来る

島うらら恙のことも少し聞き

チューリップ一弁垂れて蕊まる見え