主宰近詠(2018年12月号)

201812_p4-5近詠入稿

主宰近詠(2018年11月号)

南なだりの   本井 英

梅を干し了へたる笊を干してある

梅花藻の花端正に白に黄に

藻の花を水しわしわになりて梳く

真清水に薬罐 が漬けてありけるよ

川底に浪皺の影涼しけれ




雨あとの茎のつやつや滑莧

新涼の風我が耳を澄ませゆく

新藷をさぐり掘りせし痕ならめ

はだかりて発電パネル鳳仙花

しもつけの咲かなんとして濃かりけり




野の風に夏帽の鍔べのべのす

湿原に兄貴然たり油がや

のうぜんや村の暮らしを愛し棲み

岳麓の南なだりの豊の秋

江ノ電の涼しさは極楽寺のあたり




ばらまいて白ならぬなきヨットの帆

色見本のやうやデイゴは赤極め

片陰に呑みこまれたる蜑が路地

秋濤の炸裂しては霧らひては

秋濤の飛沫かはして磯鵯は

主宰近詠(2018年10月号)

はまばう・はまごう   本井英

土塊が割れ新藷の赤のいろ

小暗きをさらに下れば氷室跡

氷室口溶岩(ラヴァ)をいかつく積み上げて

片舷にかたむくボート夜光虫

さし入れて五指のかたちに夜光虫




覆ひして大護摩壇や油照

駐車場に朝の体操月見草

貧相な男が佇てる月見草

開ききりて二十幾弁紅蓮

踝の高さにひらき凌霄花




駒草の影を朝日がいま作る

夏潮へと延べあるレール造船所

はまばうの黄のやはらかく新しく

はまごうの咲きひろごりて静かなる

夏蝶や朱の斑を見よと翅ひろぐ




病ひには触れず日焼を褒めくれし

こもろ日盛俳句祭 四句

虚子庵の天井黒し夏の雨 虚子が棲み紅花守りし黴の庵 涼風や改札柵をあふれ吹き 山百合のくだけちらばり嵐あと

主宰近詠(2018年9月号)

稚魚なんだとか   本井 英

木天蓼や谷をへだてて古代杉

紫陽花は瑕瑾なき葉をうち重ね

日傘なほよろづ小ぶりのよろしけれ

夏燕出会ひがしらに追ひ追はれ

蜑路地の顔の高さをつばくらめ




豊島園をつつきり流れ梅雨の川

駅ごとの発車チャイムや梅雨最中

舟虫の追ひおとされて泳ぐなり

水中に風あるごとし目高散る

寝てか醒めてか五月闇知るばかり




花落ちて山梔子はやも五稜なす

睡蓮の白つまらなく黄のいやし

フラワーセンター隅つこの半夏生

老鶯を画眉鳥まぜつかへしたる

吹きおろし来たりてあふれ青嵐




楮の実なりやと問へばさてと答ふ

乾涸らびし蚯蚓を蟻のとがめざる

涼風の恣なり恢復期

四阿の黴の垂木に今日の晴

ブルーギルの稚魚なんだとか涼しげに

主宰近詠(2018年8月号)

氷室への径   本井英

朝日注ぐほどに華やぎ谷若葉

氷室への径の踊子草のころ

雉子の声にはかに近し村はづれ

万緑になほまぎれざり雉子の赤

馳せちがふは軽トラばかり雉子の昼




塗り畦にはや走る罅美しき

代掻くや蓼科山を空の隅

代掻のタイヤの泥のきらきらす

狼藉のやうに子供ら田を植うる

田植にはまじらず捕虫網揮ふ




打ち捨てし谷戸茱萸が生り柿が咲き

磯茨と命けむかなや白く低く

風裏に咲きてやすらか磯茨

洒水の瀧 六句

十薬の丈の長けしも瀧近み 瀧風の果てに揺るるは鴨足草




沢音にかむさりそめし瀧の音

駆け下ることにたゆまず瀧の白

かさね鳴く河鹿に気脈ありにけり

真清水を掬し余命を祈るなり

卯の花やダム湖の景に馴染めざる