主宰近詠(2018年4月号)

心経唱へ   本井英

ありたけの庭の水仙妻の墓に

風花や志賀の都と名は残り

絵画館の坊主頭に冬日ざし

背に浴びる冬日が味方闘病す

アスファルト濡れてまつ黒雪さらに




病室の鏡にぞ雪降りしきる

雪片や綿のやうなるなも混じり

降る雪はヒマラヤ杉を染めはじむ

降りくらむ雪に一灯また一灯

真夜は雪止み一颯の風も無き



    
I氏より
晩白柚の持ち重りせる志 今日干したばかりの大根ま輝き 岬山の眠れば浦曲まどろめる なまこ舟戻るとなればそそくさと 干潮に引かれし水脈の消ゆるまで




冬ざれてアロエもしどけなく撓み

獅子舞がロビーで舞ふも出湯の興

獅子舞の足袋の白さもはしけやし

目白らに遅れまじりて寒雀

著膨れて心経唱へくれをると

主宰近詠(2018年3月号)

銀世界     本井 英

石蕗の黄のゆつくり褪せてゆける日々

クリスマスソング水族館に充ち

サンタ帽かぶりてアシカショー司会

     

鈴ヶ森刑場跡

火炙台磔台と冬ざるる 酢茎買うて今井食堂にも寄りて




雁木うち全但バスの停留所

雁木みちへ有平棒は光蒔き

列車着けば雁木を人の通りけり

騎馬像を遠巻きにして雁木かな

雁木出はづれて橋あり銀世界




先住は俳僧とかや枯芭蕉

病室の窓東向き開戦日

帰り行く見舞ひの妻に日短

しやつくりも副作用とよ冬日和

クリスマスツリー点滅夜が明ける




カーテンと玻璃の間の聖樹かな

  

悼 崎山野梨壷さん

ノリさんにばつたり出逢ひさうな枯野 機関区のところどころの枯葎 水仙や引込み線はトンネルへ 去年今年身に病変を抱きながら

主宰近詠(2018年2月号)

崖の裾まで   本井 英

朝寒や介護タクシー待たせおき

十三夜もう始まつてをりにけり

 

京都 三句

冬立ちて市バスの色のやさしけれ 冬立つや絵馬にくろぐろ八咫烏 木の葉雨疎水等高線なぞり




京都清風荘 二句
お二階の窓ごとの冬紅葉かな 杣道に似せてしつらへ落葉積む 大根畑防潮堤の外側にも 大根の穴へ土塊こぼれけり 腕なげて鷹匠鷹を放ちけり




小春なる沼のかたちのまかがやき

水鳥の気配や蘆襖をへだて

曳き波が枯蘆を囁かせたる

細枝に細枝に冬桜かな

沖磯の奥宮もなほ神の留守




海桐の実はじけてくすみゆくばかり

酉の市ここの手締めは柝が入り

トンネルを抜けてこちらの冬紅葉

崖の裾まできつちりと冬耕す

大綿の浮いて大人し音もなく

主宰近詠(2018年1月号)

柿もいでくれもする   本井 英

山梨の(カス)口中にほの甘し

水仙の芽だち袴も行儀よく

鶺鴒や追ひ越しさうに追ひすがり

秋風に鷺の綿羽吹かれどほし

 

木曽三川

河の秋輪中(ワジユウ)浮かびし世々のこと




桑名城
戦はず開きたる城曼珠沙華 菊人形の手摺のにはか造りなる 菊人形の草摺ことに華やかに 灯を消せば菊人形の香ぞ満つる 老木にいたはしきまで新松子




胴の間に積む蛸壺に秋の雨

秋雨にA旗掲げて浮かびをり
「A旗」は潜水中の意の信号旗
ソウル清涼里
尼寺の尼柿もいでくれもする




 
慶州
いかのぼりを野分の空に放ちたる 山雀や一旦藪へ消えてまた 山雀の頰つぺたの薄汚れたる 初鴨のすべなく降られをるばかり

主宰近詠(2017年12月号)

口うるささよ  本井英

叔母ひとり手狭まに暮らす残暑かな

新松子まつぼつくりも脇になほ

自転車の胸から上が蘆原を

沼風のおよびてはをり夏蕨

雀蜂に喰はれて蝶は翅四枚




秋鯖の腹のほのかに黄をおびし

あをあをと紡錘(ツ ム)のかたちに烏瓜

秋灯にあからさまなり御前立ち

鮒用の道具ですがと鯊を釣る

眺望や島崖は枸杞咲きさかり




女郎蜘蛛肥えてゆく日々空碧し

寺女の口うるささよ萩に雨

浜にはや佇む影は月の友

赤蜻蛉簗場の空の広からず

丘空に湧いて運動会の楽




裾風に雁金草の浮き上がり

林中の説明板の蛇拙な

蒲の穂の(シシ)むらだてるあたりかな

稲架の影稲架を外れてありにけり

風のよく通へる落穂拾かな