主宰近詠(2017年6月号)


沼いくつ    本井 英

くまぐまに雪ありながら春子かな

春水がレンズのやうに湧くところ

海の幸盛りたる笊も雛調度

犬筥の犬の器量に佳きわろき

雛調度なれば具足も可愛ゆらし




キスチョコのやうな蕾を木苺は

帰る鳥の眼下を過ぐる沼いくつ

ところどころぬかるんでゐる苗木市

七味屋の屋台も出たる苗木市

はくれんの弛むたちどころに(ホグ)




仏の座かたまり咲けばその色に

はこべらに(テノヒラ)かぶせやはらかし

一木を剪定したる枝の山

大寺の沙弥ののどかの受け応へ

卒業の日の「おはよう」を交はし合ひ




西行忌老ゆればさらに心なき

猫車(ネ コ)通す小板渡して水温む

蕗の花長けたりうすら汚れたり

置き去りの鍬にさらさら春の雨

雨を来る人々に焚く春煖炉

主宰近詠(2017年5月号)


ドトールまでは     本井 英

雨さらさら龍の玉には及ばざる

龍の玉描くに叶ふ岩絵具

小流れのよろこび走り芹へ跳ね

梅林に入りて消ゆる径かな

梅の枝くぐりて少しよろけたり




その刹那目白の背 に梅の影

梅林や送風塔も設へて

あちこちでチャイムサイレン梅の午

梅蕾つぶつぶあるを剪定す

剪定や他人の話をうはのそら




剪定やラジオの音をめいつぱい

春川のおなじ早さの出会ひをり

盆梅も金鍔もすき老いたりな

花少ななる盆梅もよろしけれ

春の風邪ドトールまでは出て来たる




水替へて根がうれしさうクロッカス

筑波嶺の青く低しよ梅の風

野梅とて咲き満ちあれば華やかに

日面に長けて川曲の仏の座

朝日より夕日がやさし梅の散る

主宰近詠(2017年4月号)


右横書き   本井 英

初富士へ金烏傾きそめんとす

双六の折れ目に駒のころげけり

迎春と右横書きを掲げたる

なまはげの今年雪無き道を来る

なまはげの帰りゆくとき小さかりし




坊ごとに今日のお届け凍豆腐

寒椿落ちて氷にころがれる

ゆつくりとぶつかることも寒の鯉

釣りよせて少し抗ひ寒の鯉

寒鯉のふかく湛へしインク色




川風にことさら寒しふくらはぎ

海猫とならべば華奢に都鳥

寒天に消防ホース吊るし干し

川涸れて取水ホースの横たはり

探梅に熊鈴もがな径細り




尉鶲枝つかむとき裳裾派手

大屋根の寒の乾きの蕪懸魚(カブラゲギヨ)

日脚伸ぶ聖夜の星がまだ窓に

列柱の南都銀行日脚伸ぶ

陽石に紙垂めぐらせばあたたかし

主宰近詠(2017年3月号)


ほんわりと  本井 英

頸上下してゐし鴨の交りたる

見知りをれど名は知らぬなり日向ぼこ

御首級(ミシルシ)を埋めてまつる枯木山

山靴の泥をぬぐふに冬の草

旭光に霧氷ささやきそめにけり




蕎麦搔や十一宿は山の中

蕎麦搔に外湯めぐりの一休み

蕎麦搔や逃散などと物騒な

助炭白二畳台目(ニジヨウダイメ)のよろしさに

消閑にこころ尽くせば枇杷の花




冬帽子熊の耳つけ兎の耳つけ

しかすがに萎れ皇帝ダリアたり

乾ききりし銀杏黄葉や踏めば音

宝くじ売場著膨れならぬなく

著ぶくれてフラ教室の更衣室




著ぶくれて手庇をして老いけらし

遠目にはほんわりとあり花八手

島裏の畑も枯野にもどりたる

日のベンチ冬至の蠅が待つてゐし

大枯木かな皮めくれ枝よぢれ

主宰近詠(2017年2月号)


勤労感謝の日  本井英

烏瓜に双眼鏡のピント合ふ

厚物に出口入口無きごとく

観覧車黄葉へ降りてきて迅し

紅葉川の対岸ひろく貯木場

落ちつくし敷きつくしたる木の実かな




柊の花や門灯切れたまま

皇帝ダリア高きを以て貴しと

山越えて雨が来るころ蕎麦を刈る

お酉様お店持ちたるうれしさに

綿虫を摑まんとしてをるらしき




雪が来るよ雪が来るよと瀬の走る

京へもどる最終バスや時雨れつつ

サンライズ瀬戸小夜時雨くぐり抜け

藪茗荷の実とは淡水黒真珠

山茶花の散りちらかるといふばかり




わが息のおよぶ近さの冬桜

離陸機が冬霞より這ひ出でし

グエンさんコさん勤労感謝の日

寒禽の枝渡るあり攀づるあり

引き裂いて鷲の喰らへるもの真つ赤