主宰近詠(2017年12月号)

口うるささよ  本井英

叔母ひとり手狭まに暮らす残暑かな

新松子まつぼつくりも脇になほ

自転車の胸から上が蘆原を

沼風のおよびてはをり夏蕨

雀蜂に喰はれて蝶は翅四枚




秋鯖の腹のほのかに黄をおびし

あをあをと紡錘(ツ ム)のかたちに烏瓜

秋灯にあからさまなり御前立ち

鮒用の道具ですがと鯊を釣る

眺望や島崖は枸杞咲きさかり




女郎蜘蛛肥えてゆく日々空碧し

寺女の口うるささよ萩に雨

浜にはや佇む影は月の友

赤蜻蛉簗場の空の広からず

丘空に湧いて運動会の楽




裾風に雁金草の浮き上がり

林中の説明板の蛇拙な

蒲の穂の(シシ)むらだてるあたりかな

稲架の影稲架を外れてありにけり

風のよく通へる落穂拾かな

主宰近詠(2017年11月号)

昔とも  本井英

避暑荘のウッドデッキに置くランプ

小庵と母屋を萩の隔てたり

秋の蝶巴なす三つ巴なす

蟬時雨メロディーライン無かりける

雨音のをさまりくれば草ひばり




いんげんの花の真白はけさ咲きし

女郎花の黄をつらぬける雨の針

中干の終はらぬうちの雨の日々

千草刈りひらきソーラーパネルとよ

鶏頭にこつてり紅きスカラップ




羽黒草ここの小径をことし又

この窪も鱒池たりき千草生ひ

鱒池のすれつからしの鱒の夏

ぽつかりとある瀧空を夏燕

瀧音の追ひすがりくる磴ほそし




法師蟬楽しき日々は過ぎやすく

秋風を聴く西郷の犬の耳

紅蓮の五日目ほどと見ゆるかな

黄花なほしがみつきありお数珠玉

「夏潮」十周年
一日(イチジツ)とも一 昔とも蓮に立ち

主宰近詠(2017年10月号)

田はあをあを  本井 英

山畑に葉もの生りもの夏菊も

黒蝶の羽音聞こゆるかと見遣る

緑蔭へ小げら小声をこぼしては

野鯉釣るとよ緑蔭に小椅子置き

甥が来てくれてうれしきビール注ぐ




冷麦と青マジックで書いてある

冷麦にやさしき色の二 (スジ)

波乗りに良き波来ればたてつづけ

ここにまたフラ・スタジオや凌霄花

つきささるやうに翡翠対岸へ




海原が過ぎ去つてゆく昼寝かな

十薬の葉に錆色の行きわたり

沢瀉の白がちらちら田はあをあを

土用入わが健啖を恃みとし

夏の雨吸ひてやすらかアスファルト



   

こもろ・日盛俳句祭五句

香水や耳たぶうすく生まれつき 山かげのここの清水も諏訪の神 風わたりはじめし雨の青胡桃 青胡桃三個づつ二個づつもある 土砂降りにほとびはじめし蚯蚓かな

主宰近詠(2017年9月号)

自転車で 本井英

忍冬の蕾ぞ袋角に似たる

瀧道を出て夏雲に迎へらる

芍薬の蕾天窓ひらきけり

麦熟れて金といふ色したしめり

村潰えゆけば一面夏蕨




濁り鮒堅田夜話とてその昔

桟橋は板はづされて濁り鮒

夜が明けて見渡されたる出水かな

蟻地獄ごと手放せしわが家はも

緑蔭に放水銃のそれとなく




ぶつつりと胴を断たれて蛇乾く

市松に貼りて青芝雨が欲し

谷戸さらに深くあるらしほととぎす

ホスピスの夜の更けてゆくビールかな

稜線のにはかにひろし花あやめ




けふも降る閏五月の海の町

バスケットゴールが一基草茂る

虎の尾のおよそは同じ方へ尾を

屈託の極みの声を梅雨鴉

茅の輪くぐりて自転車で帰りゆく

主宰近詠(2017年8月号)

池塘のやうや    本井英

母疾うに亡き母の日を姉弟

湾内の卯波を熨して豪華船

雲割つて高度下げれば卯波たつ

柿の花散らし流してけふの雨

賀茂祭楽(ガク)といふものなきままに




先駆けの乗尻六騎日焼けたる

鷺しらず葵祭の川なかに

新茶古茶新茶古茶なほ古茶の日も

古茶啜る音のながきを憎みけり

恭順の一身丸め根切虫




抛られて鯉口中へ根切虫

吾が断ちし根ツ切虫の天寿かな

葉はさらに風に応へて花楝

虫喰ひが池塘のやうや蕗広葉

干あがつてしまひさうなり莕菜咲き




佳きお庭にはクローバー品下り

すでに順路せばめそめたり萩若葉

春蟬の空蟬なるはかく小さく

夏潮が引けば甘藻は横たはり

夏潮の引きて貽貝の露はにぞ