麻服のしわも景色のバーの客 松島盛夫

 季題は「麻服」。『虚子編新歳時記』、および『ホトトギス編新歳時記』に「麻服」として立項はされていないが、どちらの歳時記にも「夏服」があり、その解説文中には「麻」という素材が記されていることから、「麻服」も自ずから「夏の季題」の範疇に考えても良いであろう。さて大昔の「紳士」達は夏場に「麻の背広」などを着ることもあったようだが、我々世代はさすがに「麻の背広」を着る勇気は無かったし、せいぜい「ギャッツビー」の映画を見て溜息を零す程度であった。しかし、一句にはそんな人物が「バーの客」として登場する。この「バー」というのも現代生活からは、やや遠のいた存在。勿論、探せば、昔ながらの「バー」も無くは無かろうが、すっかり「酒」と距離の出来てしまった筆者には「夢の世界」ではある。一句の場面は、「老バーテン」が一人カウンターの中に立っているような薄暗い「バー」。その「止まり木」にかけた、一人の紳士の「麻服」に少々「皺」が寄っていたというのである。店内には音量を絞った「ジャズ」が流れ、人の話し声もあまり無い。一句の手柄は「景色の」。「見どころ」と言った意味合いか。茶道具などでも使うらしいが、如何にもこの「バー」に相応しいものとして「麻服のしわ」があったというのである。作者の「美学」なのである。(本井 英)

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