第4回黒潮賞・親潮賞を読んで。(前北かおる)
今年は、黒潮賞を山内裕子さんが、親潮賞を前田ななさんが受賞されました。おめでとうございます。今年も、受賞作と第二席、第三席の作品について、感想を書いてみたいと思います。
・「宵山」山内裕子
祇園祭の宵山に取材した連作です。宵山の様子が詳細に写生されています。
とつぷりと暮れて見えざる鉾の先
高い建物のない京都の路地の夜空がよく見えてきます。「暮れて見えざる」という中七は、無駄なく描写していながら、ゆったりとした調べに仕上げられています。
タクシーの客の見上げる鉾の空
タクシーで祭を素通りするお客なのでしょうが、思わず山鉾の立ち上がった空を見上げているのです。晴れやかな街の雰囲気が感じられます。
「宵山」に絞って句を並べたために、観光客目線の句も混じってしまっているようにも思いました。
御籤売る子等浴衣着の囃子唄
帯に差すちまきや鉾に笛を吹き
金襴の鉾の飾りの灯に映えて
それぞれ「御籤売る」、「笛を吹き」、「映えて」というところまで言ったせいで、季題が脇に追いやられてしまった印象を受けました。
・「旅一日づつ」前田なな
都府楼と柳川あたりを吟行された句をまとめられたようです。春を謳歌する気持ちに満たされた連作です。
都府楼の空の広さや凧ひとつ
「空の広さや」の切れに当日の伸びやかな気分がよく伝わってきますし、それを「凧ひとつ」と言い収められていて格調高い一句になっています。
咲き急ぎたちまち風の桜かな
「たちまち風の桜かな」の鮮やかさが、桜吹雪の有様にぴたりと合っています。
そのほかにも
ゆつくりと海より霽れて初桜
身を屈め潜る石橋花の舟
鰻屋の列また伸びて花の昼
など、徐々に駘蕩としてくる春の気分に乗せられるように味わうことができました。
・黒潮賞第二席、第三席
第二席、青木百舌鳥さんの「オクラ美味」は、凝りすぎた句が多いように思いました。主宰も評されている
朝蟬や日照雨なりしがさはに降る
シャツ脱いで汗ツ臭さに放りたり
が良いと思いました。
第三席、梅岡礼子さんの「耕」は、農村の一年に取材した作品。田畑を中心にしていますが、「早乙女」や「草刈女」、「農夫」という人々が登場したり、「駐在」「茅葺」「土蔵」といった建物、「鶏」「猪」「小鳥」「鷺」などの動物も出て来て、バラエティーに富んでいます。
鶏小屋の寝静まりたる夜の秋
九月まで猛暑日が続くような街では感じられないような、夏の終わろうとする夜の静けさが思われます。
駐在に寺に役場に青田風
黄を極め赤み帯びたる稲田かな
市に聞く山の向うの雪のこと
など、それぞれの季節の雰囲気がよくわかります。私は、この作品が一番好きでした。
・親潮賞第二席、第三席
第二席、山口照男さんの「父」は、既に亡くなられたお父さまを追懐する句を含む作品。
年々に父の裸に似る吾か
晩年の介護をされた時に見ていた「裸」なのでしょうか。自らの老いを受け入れる心理が描かれています。
とうしみの畳みし羽のずれかすか
静かな句ですが、季題を凝視していて凄味があります。
第三席、山口佳子さんの「上昇気流」は、鷹の渡りを見に行かれた時の作品でしょうか。
鷹柱上昇気流描きつつ
松虫草野麦峠は峰続き
の二句が良いと思いました。