雑詠(2020年10月号)

利根川の夜明けを告げて行々子		北村武子
川幅を埋めて滔々夏の川
柿の花こぼるるまゝに駐車場
サボテンの針のあはひに花五つ

さみだれの一日を妻の枕もと		井上 基
椋一羽道路に蜥蜴打ちつけて		田中温子
夏川の浅きを鼈の進む		児玉和子
海霧に生れ姫白蝶といふ名前		稲垣秀俊

雑詠(2020年9月号)

ぼうたんの散るごとに身を軽うする	田中 香
擬宝珠やブロック塀に菱の窓
傾がざるものなかりけり花擬宝珠
側溝に根付きし草や五月雨
ビオトープ溢れしめたる五月雨

ぽろぽろぽろぽろたんぽぽへ山羊の糞	前田なな
寝そべれば仔馬は薄し草青し		冨田いづみ
香のもとへ辿り着きたり桐の花		三上朋子
よるべなき身や満開の花仰ぐ		久保光子

雑詠(2020年8月号)

平日を子どもと過ごす桜餅		永田泰三
工場の敷地にテニスして長閑
寝ころびて蒲公英ほどの目の高さ
麗らかや電気で走る乗用車

茎立や土手にほまちの畝立てて		山内繭彦
北窓を開けて潮の香波の音		磯田和子
寒冷紗柵に絡げて耕せる		天明さえ
木蓮や物納とする家屋敷		矢沢六平

雑詠(2020年7月号)

伝へばや二人の桜咲き初むと			牧野伴枝
手作りのマスク姉より文添へて
後退りしつゝ初花確かむる
花の句を遺愛のペンで清書する

両腕で鎖を抱へ半仙戯			藤森荘吉
春障子内より声の洩れて来し			山内裕子
木曽川に机を洗ひ卒業す			近藤作子
その中に陰とぢこめて雲の峰			藤野 澪

雑詠(2020年6月号)

涅槃図を展じ校内清閑と			前田なな
料峭や池底に黒き己が影
潜き合ひ水輪押し合ひかいつぶり
すべり来て石にふくらむ春の水
花びらの筋目いとほし犬ふぐり

薄氷やうち寄せられて積み上がり		矢沢六平
水仙や燈台守の官舎跡			杉原祐之
好き〴〵に火をつゝくかな磯かまど		黒田冥柯
調弦の倍音ぴんと春浅し			田中 香