雑詠(2019年10月号)

ひとり食めばさみしくなりぬさくらんぼ		天明さえ
亀の子の三角頭あさざ池
風光り先の先まで青信号
初夏の森かぐはしく匂ふかな
墨色をおびし白雲梅雨の晴
突兀として粧へる峰が古			藤永貴之
九輪より降り注ぐ風花楝			釜田眞吾 
急発進してあめんぼの弾き合ふ			前田なな
地下壕の門扉錆付き梅雨寒し			深瀬一舟

雑詠(2019年9月号)

水に落ち水際に落ち桐の花      田中 香
大いなる波を生みつゝ代田搔く
茄子苗の花一輪を下げて立つ
兜まづ立てゝ捌けり初鰹

震災を重ねて遠き震災忌       前北かおる
ボタ山の天辺まろし鰯雲       櫻井茂之
些細なる諍ひ麦の飯冷えて      山内裕子
無住寺の門に閂柿若葉        皆川和子

雑詠(2019年8月号)

潟船へ月の歩板の高々と		藤永貴之
禁苑に残る御文庫終戦日
星月夜火星またゝくことをせず
月あかり舟は潟土に乗り上げて
女郎蜘蛛の夫や死ぬまで居候

お呉れよと言へぬ雀の子のあはれ	稲垣秀俊
加湿器のぼここぼぼこと春の夜		望月公美子
教会の扉のあいてゐるイースター		冨田いづみ
金鳳華清滝道といふを来て		山内裕子

雑詠(2019年7月号)

日盛のはちきれさうな機体かな      前北かおる
たなごころ絹糸草に触れにけり
花火見て戻るビジネスホテルかな
この島に虹の立つまでとどまらむか

賓(マレビト)の現れ野遊に出掛けたる   杉原祐之
仙人掌の雨の中にぞ置かれたる     藤野 澪
春寒や無人の路地に煙草の香      梅岡礼子
磴一歩下れば寒き川の風        山本道子

雑詠(2019年6月号)

春の風邪明るき場所で眠るなり		黒田冥柯
野火移るそろり〳〵と人もまた
恋猫の隅まで舐(ネブ)る餌の皿
芝焼くや白線のなき駐車場

骨正月金箔の酒酌みつくす		山内繭彦
赤志野に今朝のいちりん白椿		伊藤八千代
梅林の脇にタクシー休憩中		梅岡礼子
憲兵之碑に藪椿赤きこと		児玉和子