雑詠(2020年8月号)

平日を子どもと過ごす桜餅		永田泰三
工場の敷地にテニスして長閑
寝ころびて蒲公英ほどの目の高さ
麗らかや電気で走る乗用車

茎立や土手にほまちの畝立てて		山内繭彦
北窓を開けて潮の香波の音		磯田和子
寒冷紗柵に絡げて耕せる		天明さえ
木蓮や物納とする家屋敷		矢沢六平

雑詠(2020年7月号)

伝へばや二人の桜咲き初むと			牧野伴枝
手作りのマスク姉より文添へて
後退りしつゝ初花確かむる
花の句を遺愛のペンで清書する

両腕で鎖を抱へ半仙戯			藤森荘吉
春障子内より声の洩れて来し			山内裕子
木曽川に机を洗ひ卒業す			近藤作子
その中に陰とぢこめて雲の峰			藤野 澪

雑詠(2020年6月号)

涅槃図を展じ校内清閑と			前田なな
料峭や池底に黒き己が影
潜き合ひ水輪押し合ひかいつぶり
すべり来て石にふくらむ春の水
花びらの筋目いとほし犬ふぐり

薄氷やうち寄せられて積み上がり		矢沢六平
水仙や燈台守の官舎跡			杉原祐之
好き〴〵に火をつゝくかな磯かまど		黒田冥柯
調弦の倍音ぴんと春浅し			田中 香 

雑詠(2020年5月号)

日の落ちて喪中の友へ初電話		小林一泊
鼻歌の七草なづなパンを焼く
喧しく雨戸閉つ音寒の月
日の光届く床の間福寿草

女郎蜘蛛屑零しつつ獲物食む		山本道子
寒梅の香のしんとして流れざる		田中 香 
シツ出津文化村とや蜜柑咲く香り	藤永貴之
冬夕焼ずつと遠くへゆく列車		小沢藪柑子

雑詠(2019年4月号)

埋火を探る冷たき火箸かな		山内裕子
掌をかざし埋火確かむる
林中に薄日の差して冬の草
一団の鵜の去りてより鳰
草枯れて空気の抜けし鞠ひとつ

降り止まぬ暗き沖より鰤起し		岩本桂子
池奥よりすべり出で来し鴨の数		児玉和子
寒禽の喉を緩める日和かな 		原 昇平
ざらざらと座棺におちる冬の土		田中金太郎