雑詠(2020年6月号)

涅槃図を展じ校内清閑と			前田なな
料峭や池底に黒き己が影
潜き合ひ水輪押し合ひかいつぶり
すべり来て石にふくらむ春の水
花びらの筋目いとほし犬ふぐり

薄氷やうち寄せられて積み上がり		矢沢六平
水仙や燈台守の官舎跡			杉原祐之
好き〴〵に火をつゝくかな磯かまど		黒田冥柯
調弦の倍音ぴんと春浅し			田中 香 

雑詠(2020年5月号)

日の落ちて喪中の友へ初電話		小林一泊
鼻歌の七草なづなパンを焼く
喧しく雨戸閉つ音寒の月
日の光届く床の間福寿草

女郎蜘蛛屑零しつつ獲物食む		山本道子
寒梅の香のしんとして流れざる		田中 香 
シツ出津文化村とや蜜柑咲く香り	藤永貴之
冬夕焼ずつと遠くへゆく列車		小沢藪柑子

雑詠(2019年4月号)

埋火を探る冷たき火箸かな		山内裕子
掌をかざし埋火確かむる
林中に薄日の差して冬の草
一団の鵜の去りてより鳰
草枯れて空気の抜けし鞠ひとつ

降り止まぬ暗き沖より鰤起し		岩本桂子
池奥よりすべり出で来し鴨の数		児玉和子
寒禽の喉を緩める日和かな 		原 昇平
ざらざらと座棺におちる冬の土		田中金太郎

雑詠(2020年3月号)

観念して家業に就きぬ酉の市		矢沢六平
凩やびつくりガードくぐり抜け
機関区を望む陸橋冬日和
冬もみぢ仮設トイレを撤去中
投げ放つ鷹の低空飛行かな

はこべらの茎も(ウテナ)も産毛かな		藤永貴之
零余子かな小惑星の(カタチ)して		原 昌平
しらしらと芋の見えゐる芋水車		田中 香
桜湯の碗をタトゥーの手が包む		櫻井茂之

雑詠(2020年2月号)

抱かれたる子猫瞬きせずに鳴く		櫻井茂之
虫出の鳴りて響かず了はりけり
拍手鳴り了へて再び弦の春
ナンを焼く男歌ふや春の宵

ボンネットにひろげ茸の粗選び		矢沢六平
犬たちを橇に繫げば尿り出す		藤永貴之
鯔の飛ぶ京浜運河交差点		小野こゆき
小児科に運動会の楽の音		杉原祐之