雑詠(2019年6月号)

春の風邪明るき場所で眠るなり		黒田冥柯
野火移るそろり〳〵と人もまた
恋猫の隅まで舐(ネブ)る餌の皿
芝焼くや白線のなき駐車場

骨正月金箔の酒酌みつくす		山内繭彦
赤志野に今朝のいちりん白椿		伊藤八千代
梅林の脇にタクシー休憩中		梅岡礼子
憲兵之碑に藪椿赤きこと		児玉和子

雑詠(2019年5月号)

穴ぐらのごとき入口霜の城			渡邉美保
底冷の廊下の奥に洗面所
漱石の旧居の縁に冬日浴ぶ
凍土に花の名札のたちならび

料亭の雑煮頂く女正月			岩本桂子
麦の芽やキハヨンナナのたらこ色			杉原祐之
寒灸に掌の汗ばんでをり			原 昇平
底冷の急階段を武具の間に			梅岡礼子

雑詠(2019年4月号)

ゆるやかに道曲がりゆく枯木立		山内裕子
庭園の外へも銀杏散り続く
被服廠跡の公園銀杏散る
排気塔の蒸気濛々冬の朝
草揺れて笹鳴少し遠ざかる
心中を聞かなくなりて近松忌		津田祥子
笹鳴のここにも聞こえ帰り道		玉井恵美子
ストーブにおでん鍋ある定食屋		田中 香
沼よぎる寒禽なにか言ひ残し		梅岡礼子

雑詠(2019年3月号)

コンバインのライトが帰る刈田道		磯田和子
アーケードの出口混み合ふ秋時雨
きちきちの野路の竪穴式住居
葛の蔓花ごと垂れて四ツ谷駅

キャンパスを二人乗りして小六月		園部光代
湖面を渡つてきたる時雨かな			小沢藪柑子
林中のひよろと伸びたる茶にも花		山内裕子
小春日のトウノ当尾の仏供華に蝶		柳沢木菟

雑詠(2019年1月号)

からまつて落ちゆく泥鰌放生会     矢沢六平
蟷螂の猛り続けて転げけり
夕月や蔵の框に猫の皿
鈴虫のながく鳴き止む夜更かな
コスモスやダム湖へ続くダンプ道

甘蔗畑の先に不意に崖        小沢藪柑子
日没りてなほもしづれる雪のある    藤永貴之
俳壇の遠くにありて初句会       前北かおる
忘れたる頃にずどんと威銃       井上 基