神饌の梨 本井英
膝で水押して渉れば初嵐
百日紅また花筏なせるもの
残暑には違ひなけれどただならず
露の微塵のピアスにも出来ぬほど
鎌倉に月影が谷戸虫の秋
秋蝉が何か炒めるやうに鳴く
着せられて尻はしよられて案山子翁
抱きついて案山子に帯を縫ひつくる
入院の荷物は出来し夜は長し
花野までタクシーで乗りつけし人
細波を押すは細波池の秋
秋蝶は黄なり池水ココア色
芒穂に出でんといまは綰ねられ
さつきから靴に小石が野路の秋
咲くまでの紅のむつつり曼珠沙華
噴水の軸はぶれずよ穂はゆらぎ
伊勢四句
袋掛けて育てまゐらす神饌の梨
岬裾に観光歩道新松子
露けさの黒木鳥居も御塩浜
黒雲がをどりかかりて月呑める