主宰近詠(2012年12月号)


神饌の梨          本井英

膝で水押して渉れば初嵐

百日紅また花筏なせるもの

残暑には違ひなけれどただならず

露の微塵のピアスにも出来ぬほど

鎌倉に月影が谷戸虫の秋




秋蝉が何か炒めるやうに鳴く

着せられて尻はしよられて案山子翁

抱きついて案山子に帯を縫ひつくる

入院の荷物は出来し夜は長し

花野までタクシーで乗りつけし人




細波を押すは細波池の秋

秋蝶は黄なり池水ココア色

芒穂に出でんといまは綰ねられ

さつきから靴に小石が野路の秋

咲くまでの紅のむつつり曼珠沙華




噴水の軸はぶれずよ穂はゆらぎ

伊勢四句

袋掛けて育てまゐらす神饌の梨

岬裾に観光歩道新松子

露けさの黒木鳥居も御塩浜

黒雲がをどりかかりて月呑める