日別アーカイブ: 2012年9月1日

磯竈子どもの出たり入つたり 藤永貴之(2012年4月号)

「磯竈」が春の季題。虚子編『新歳時記』には「若布刈の海女のあたる焚火の囲ひで、磯焚火ともいふ。三重県志摩の漁村の風習で、十四、五人も一緒にあたれるくらゐの大きさに、周囲を円く笹竹で丈余の高さに囲うたものである。入口は東に向つて小さく開ける」と詳細な解説が施されている。「入口は東」云々とまで書かれるとその理由を聞きたくもなるが、「海女」という生業への不思議なロマンチシズムが季題解説にまで及んでいるようで面白い。一句も、上五の「歳時記」の解説を膨張させたような空想と、中七・下五の「現実味」が不思議に交錯して、読む者を季題の世界に引っ張り込んでしまう。「ほんとかしら」と思いながらも、「そんなことも、あろうよ」と納得する。作者の術中に敢えて嵌る楽しみ、といったものであろうか。「男子禁制」の「磯竈」の雰囲気を上品に形にした。(本井英)

雑詠(2012年4月号)

磯竃子どもの出たり入つたり		藤永貴之
別荘と見ゆる新宅猫柳
春潮に舫はれしごと志賀島
舟着いて舟残りたる暮春かな

厠より無花果に手の届きさう 浦木やすし 山眠る横須賀線のすぐそばに 井上 基 古狐泣く子に化けて去つてゆく 藤森荘吉 背中から抱きかぶさりて花の下 前北かおる
					

課題句(2012年4月)

「囀」            矢沢六平選

ソラソラにシドと囀応ふなり		前北麻里子
囀の桃いろ黄いろ薄みどり

囀や庫裏はソーラー屋根なりし 田島照子 大佛は二の丸跡や囀れる 津田伊紀子 囀や崖に三尊刻まるる 波多野美津子 囀の塵湧くやうや薮のさき 本井英