日別アーカイブ: 2012年3月15日

課題句(2012年3月号)

「春泥」            児玉和子選

決意して行くほかはなし春の泥	福伊英子
念願の西行庵へ春の泥

一枚に伸され春泥売地なる 前田なな 春泥を子をぶらさげて渉りけり 田島照子 春泥にながぐつ残し抱きあげぬ 前北麻里子 山路今南斜面へ春の泥 山内裕子

無花果や井戸の隣にいつからか 辻 梓渕(2012年3月号)

季題は「無花果」。普通の「花」から「実」へのプロセスとやや異なり、一見「花」らしい「花」が咲かぬうちに茎の一部が肥大して「実」のようになることから「無花果」の用字が生まれたものであろう。世界的にも古くから食され薬用にも用いられた。その「無花果」が家の裏庭の井戸の脇に生えているのである。亭々たる大樹になるでもなく、貧相な枝ぶりに、それでいて毎年いくばくかの「実」をつける「無花果」。さて、何時から爰に生えていたのだろうかと、若かった時分からの記憶を辿ってみると存外古くから、ここにこうしてあったようにも思える。「いつからか」に、無花果の殊更めかさない本質が語られている。 (本井英)

雑詠(2012年3月号)

無花果や井戸の隣にいつからか	辻 梓渕
シリウスが光り凩吹き募る
小屋掛けの子供歌舞伎や菊日和
行秋のどことなく怪しげな路地

紅葉山迫りて昏るる湯の小路 津田伊紀子 箒目に早や山茶花の五六片 青木百舌鳥 おはじきのごと銀杏を分け合へり 田中 香 人らしくなくして捨つる案山子かな 櫻井茂之
					

主宰近詠(2012年3月号)


惜しむ心の        本井英

(ハクギョク)白玉に出入り口無し茶の蕾

冬ざれて薬草園は札ばかり

顎あげて獲物咥えて親狐

眼ふかく閉ぢて満腹狐の仔

とつとつとつとつとつとつとつ狐去る



煤竹の届いてはをり(カエルマタ)蟇股

うすき背を屈めては咳こぼすかな

飛行雲ころげくづほれ冬の晴

枯蔓のぽきぽき折るる螺旋かな

宮邸の大冬木立住まふなく



橋なかにマフラー外す日和かな

歩み入り銀杏落葉や面映ゆき

幾本もホースが走り火事の路地

鎌倉や山が眠れば谷戸もまた

枯れてなほ岩煙草とぞ知られける



へとへとに枯れつくしたり擬宝珠の葉

極月の色にくすみて茨の実

真かづら蕩けそうなる赤充たし

皺みたるままに流れて冬の水

この年や惜しむ心のありながら