無花果や井戸の隣にいつからか 辻 梓渕(2012年3月号)

季題は「無花果」。普通の「花」から「実」へのプロセスとやや異なり、一見「花」らしい「花」が咲かぬうちに茎の一部が肥大して「実」のようになることから「無花果」の用字が生まれたものであろう。世界的にも古くから食され薬用にも用いられた。その「無花果」が家の裏庭の井戸の脇に生えているのである。亭々たる大樹になるでもなく、貧相な枝ぶりに、それでいて毎年いくばくかの「実」をつける「無花果」。さて、何時から爰に生えていたのだろうかと、若かった時分からの記憶を辿ってみると存外古くから、ここにこうしてあったようにも思える。「いつからか」に、無花果の殊更めかさない本質が語られている。 (本井英)

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