日別アーカイブ: 2011年8月18日

ふらここを宙返りせんばかり漕ぐ 美恵子 (泰三)

夏潮8月号雑詠欄より。

季題は「ふらここ」、ブランコの事。「鞦韆」(しゅうせん)の傍題で春の季題である。ブランコなんて年中あるのであるが、角川俳句第歳時記には、「紀元前七世紀、中国北方の異民族から輸入されたものという。異民族の間では、寒食の節(冬至から105日目)の日に鞦韆に乗って遊ぶという風習があった」と解説される。

さて、この句。ふらここなんて懸命に漕いだところで何のためになる訳でもない。しかし、漕ぎ出すとムキになって誰よりも高く、そして、いつもよりも高く、まさに「宙返りせんばかりに」漕ぎたくなってしまう。春の陽気の中を行ったり来たりしている元気なふらここの姿が目に浮かぶ。

花鳥諷詠心得帖18 二、ことばの約束 -10- 「漢字(正字、略字、うそ字)」

戦後の国語政策が「現代仮名遣い」と「当用漢字」の制定を基軸として展開されたことは既に触れた。そこで今回からは「漢字」のお話。

ところで「漢字」は一体幾つあるのか。正確な数は不明ながら(数え方によって異なるという意味で)史上最大級の漢字辞典として有名な二十世紀日本の諸橋轍次『大漢和辞典』で四九九六四字、十八世紀中国の『康煕字典』は四七〇三五字である。

ただしこれらの中には我々が生涯使用しないであろう漢字も多く、約五万字はどこまでも「最大」での話だ。

一方我々に身近な『大字典』クラスになると凡そ一万から一万五千字を収録しており、俳句を詠む・読む上ではこの程度でも何とかなる、と私は考えている。

ところで我々俳人にとって一つの大きな問題は「正字・略字」の問題かも知れない。世に言う「旧字・新字」だ。

正字とは「學」「藝」の類。「康煕字典体」とも呼ばれる。

「略字」とは「学」「芸」の類の字体。この略字体は現在「常用漢字字体表」に登録されている分については正式に認められている。つまり「学」にしろ「芸」にしろ「常用漢字」に含まれているので略字体が通行しても「お咎めなし」なわけだ。

ところが例えば「籠」(かご)は「常用漢字」(一九四五個)に含まれていないので「正字」のみがあって「略字」は無い。世間で通用している「篭」(かご)は、厳密に言えば「うそ字」ということになる。「タケカンムリ」をそのまま置いて、「龍」を、その略字「竜」に置き換えただけのものだ。因みに「竜」は常用漢字に含まれているので、それ自体は「許され」ているのだ。

似た例では「滝」・「蛍」。これらは共に常用漢字なので「瀧」「螢」でなくても良い。ただし俳句の中に使用する場合「瀧」「螢」も表現としては捨てがたく、結果として「新旧」不統一のきっかけになりかねない。

「龍」の字に関連して「朧」は当然常用漢字に入っていないので略字は無い筈なのに、虚子先生の句碑に「月竜」(註:にくづきに竜)の字が登場する。

「犬吠の今宵の朧待つとせん 虚子」
昭和十四年作、昭和二十七年建立のものだが、何故か揮毫されたものは「月竜」であった。

わが「惜春」は常用漢字については略字、それ以外については正字で表記されている。例えば投句用紙に「齢」(よわい)と書いても、雑詠欄では正字で書かれているし「虫青(註:むしへんに青)蛉」と書いても「蜻蛉」と正しく直されている筈だ。

ここで厄介なのは「JIS」(日本工業規格)。

例えば魚のサバは常用漢字でないので正字で書くべきだが、ワープロで書くと「JIS」規格によって「鯖」と平気で「うそ字」が打たれてしまう。読めれば良いような気もするし、それでは「漢字」文化が守れないようにも思う。

次回も漢字の続き。