季題は「水母」、「海月」とも書く。海の岸壁近い辺りに「水母」がたくさん屯しているのである。「水母」はただ、無為に浮かんでいるように見えるが、傘を開閉することで多少の移動はできる。それでもどういう訳か岸壁近くに寄り集まって、うねりにともなって上下しているのである。うっかりすると岸壁に触れて擦過しそうなものだが、決してそんな失敗はしないで漂っている。「水母」は『古事記』に既に「くらげなす、ただよへるとき」とあるように、人々の暮らしに間近なものであったに違いない。
中七の「ふるるともなく」の言い回しと、韻律が絶妙で、平仮名七文字のひとつひとつまでが、どことなく水母に見えてくるから不思議である。「諷詠」とはこうしたものであろう。(本井 英)