在宅の仕事納めの静かな日  藤森荘吉

 季題は「仕事納め」。『虚子編新歳時記』、『ホトトギス編新歳時記』共に、「御用納」はあるが「仕事納め」は季題として立てていない。角川『俳句大歳時記』では「御用納」の傍題として立項、例句として宮坂静生の<揺れゐたり仕事納めの弥次郎兵衛>の一句を掲げる。「御用納」となれば官公庁、あるいは古くは朝廷、幕府での業務を納める日。民間あるいは武家でない者が使うのはやや憚られたものであろう。そこで自然と「仕事納め」という言葉が使われ始めた、と思われる。一句の味わい処は「在宅の」。普通に「家に在る」の謂で永らく使われてきた言葉で、「在宅起訴」などという物騒な言葉もある。ところが近年の「コロナ騒ぎ」から「在宅勤務」が大幅に導入され、多くの勤め人達が、無理に通勤しない状態が広まってくると、一つの「暮らし方」として認知されるようになり、掲出句などの状況も誠に納得のいくものとなった。全員が通勤していた頃、「仕事納め」となれば、気心の知れた同志で「一杯やって」から家路に着くのが、当たり前だったものだが。静かにパソコンの電源を切って「終わり」という事になるのであろう。「静かな日」という表現に、一日の静けさも思われて、「令和の句」であると実感させられた。季題に随順した健全な人生を思った。(本井 英)

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