「紅梅」 足立心一選 段丘に濃きも薄きも梅の紅 武居玲子 青空へ撒き散らすやう濃紅梅 雲厚き日や紅梅の匂ひたる 原 昇平 紅梅やぽちりぽちりと落花置き 本井 英 画室には墨と紅梅匂ふかな 岡﨑裕子 荷を解き湯宿の庭の薄紅梅 江本由紀子
課題句(2024年2月号)
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「紅梅」 足立心一選 段丘に濃きも薄きも梅の紅 武居玲子 青空へ撒き散らすやう濃紅梅 雲厚き日や紅梅の匂ひたる 原 昇平 紅梅やぽちりぽちりと落花置き 本井 英 画室には墨と紅梅匂ふかな 岡﨑裕子 荷を解き湯宿の庭の薄紅梅 江本由紀子
季題は「里祭」、「秋祭」、「村祭」とも呼び、秋の季題である。「祭」が夏のもの、都会のものであるのに対して言う。村の顔見知りだけで執り行い、祭客とて大して集まるわけでもないものではあるが、それなりのクライマックスはあって、神輿の渡御なども無事終了。その後は粛々と各員「持ち場」を「片付け」て行く。その行動がまことに「手際」がよく、あっと言う間に「祭」以前の状態に復していったというのである。各地の「夏祭」の多くが観光という側面を意識したイベントになりつつあるのに好対照をなしていることに気づいた一句である。都会で育ち、現代そのものを生きてきた作者が、一転、地方の生活に身を委ねて年月を過ごし、至りついた知恵が見つけてくれた「一場面」であったと言えよう。(本井 英)
片づけの手際よきこと里祭 矢沢六平 芳名を張り出す係里祭 松明の赤さだんだん虫送 はざ棒を芯に藁にほ組み上がる 茶の花の思はせぶりに俯きて 天明さえ 歩まざりし路を思へり秋の声 児玉和子 軒低く五十八の数寄屋暮の秋 柳沢木菟 旅にある夫をおもひて月の虹 冨田いづみ
忘れめや 本井 英 鴛鴦の夫置いて水面は砥の如し 瑠璃と仰ぎ玻璃と見下ろし雨氷かな 枯木山なる妻の墓母の墓 ビル影に入ればひいやり冬麗 錨泊の黒船のごと浮寝かな 曳波にいちいち応へ浮寝鳥 コンビニの入口に売る大根かな 冬帝の遣はしめなるはたた神 冬帝の蹴散らし止まぬ波濤かな 葛襖ずたずたに枯れわたりたる ほろほろと落葉だまりに尿そそぐ 沖風にアロエの花の震へ止まず 権五郎神社暫く日向ぼこ 息白く開園前の飼育員 猫砂を買ひ足すことも年用意 ヘリの飛ぶ低さも年の瀬のことと 数へ日の鴫立庵の昨日今日 銀杏落葉微塵にカレー粉のやうに 朴落葉八割ほどはうつ伏せに 忘れめや声失ひし今年のこと