主宰近詠(2024年2月号)

忘れめや    本井 英
     

鴛鴦の夫置いて水面は砥の如し

瑠璃と仰ぎ玻璃と見下ろし雨氷かな

枯木山なる妻の墓母の墓

ビル影に入ればひいやり冬麗

錨泊の黒船のごと浮寝かな

曳波にいちいち応へ浮寝鳥        

コンビニの入口に売る大根かな

冬帝の遣はしめなるはたた神

冬帝の蹴散らし止まぬ波濤かな

葛襖ずたずたに枯れわたりたる

ほろほろと落葉だまりに尿そそぐ

沖風にアロエの花の震へ止まず

権五郎神社暫く日向ぼこ

息白く開園前の飼育員

猫砂を買ひ足すことも年用意

ヘリの飛ぶ低さも年の瀬のことと

数へ日の鴫立庵の昨日今日

銀杏落葉微塵にカレー粉のやうに

朴落葉八割ほどはうつ伏せに

忘れめや声失ひし今年のこと

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