「茗荷の花」 久保北風子選 この窪地塔頭跡てふ花茗荷 山本道子 円覚寺柏槙下に花茗荷 かきわけて茗荷の花や猫の道 原 水和実 茗荷の花遺品整理に通ふ日々 黒田冥柯 通り雨茗荷の花を濡らしけり 山口照男 井戸端の水掛かりたる花茗荷 磯田和子
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「茗荷の花」 久保北風子選 この窪地塔頭跡てふ花茗荷 山本道子 円覚寺柏槙下に花茗荷 かきわけて茗荷の花や猫の道 原 水和実 茗荷の花遺品整理に通ふ日々 黒田冥柯 通り雨茗荷の花を濡らしけり 山口照男 井戸端の水掛かりたる花茗荷 磯田和子
季題は「春」。抽象的な「春」という季題が「ラッパ」から「溢れ」出るという感じ方が、やや感覚的ながら、どこかに実感がある。一句の工夫は「ラッパ」。あえて金管楽器を、大雑把に言いなしたために、トランペットやホルン、さらにはチューバ、スーザホンに至るまでさまざまの形を読者は頭の中で想像する。「楽隊」というのであるから何人かの隊員がいて、あるいは行進をしている最中かもしれない。ともかく筆者の頭に浮かんだのは、いろいろある「ラッパ」の音の「出口?」の形状であった。「管」が、同じような太さで、ぐるぐる巻いていたものが、最後に「ふわっと」膨らみ、拡がって、「音」が溢れ出てくる。この「溢れ出る」様子が、まさに「春」を迎えた喜びの心に通じると作者は直感したのである。難しい言い回しはどこにも無いが、作者の、あるいは読者も含めて、生きているものが等しく感じる「喜び」を歌いあげてくれた句だと思った。(本井 英)
楽隊のラッパより春溢れ出す 釜田眞吾 ふらここや日蔭を出たり入つたり 春眠といふ幸福の中にをり お腹には三人目とぞ暖かし 春陰の一号館の石の廊 渡邉美保 揺蕩ひてさて流れゆく花筏 町田 良 一室は貝の標本夏館 山口照男 葉桜や尺取る虫が我が肩に 浅野幸枝
五月晴 本井 英 半夏生まぶしき白を掲げたる 半夏生の白にくもりの見えそめし 十薬の葉の錆色を好もしと 虎ヶ雨降り込む闇の底知れず 広重の画をた走るも虎ヶ雨 一庵の聾しひるまで虎ヶ雨 虎ヶ雨泣いて疲れて寝落ちたり 泣き伝へ語り伝へて虎ヶ雨 虎御前の顔白き五月闇 この声が電気喉頭梅雨寒し
海の町にせまる裏山五月晴 海の町に小さき魚屋五月晴 にじみ浮く白雲のあり五月晴 山の湖の権現様の茅の輪かな 夏蝶の黒のはばたき浮かむとす 腹に当たり肋を撫でて風涼し 朝日いま河骨の黄をさぐり射し のうぜんに退潮といふ花のかず 白波を敷きかさねたる涼しさよ 海の家へと月曜の朝の風