楽隊のラッパより春溢れ出す   釜田眞吾

 季題は「春」。抽象的な「春」という季題が「ラッパ」から「溢れ」出るという感じ方が、やや感覚的ながら、どこかに実感がある。一句の工夫は「ラッパ」。あえて金管楽器を、大雑把に言いなしたために、トランペットやホルン、さらにはチューバ、スーザホンに至るまでさまざまの形を読者は頭の中で想像する。「楽隊」というのであるから何人かの隊員がいて、あるいは行進をしている最中かもしれない。ともかく筆者の頭に浮かんだのは、いろいろある「ラッパ」の音の「出口?」の形状であった。「管」が、同じような太さで、ぐるぐる巻いていたものが、最後に「ふわっと」膨らみ、拡がって、「音」が溢れ出てくる。この「溢れ出る」様子が、まさに「春」を迎えた喜びの心に通じると作者は直感したのである。難しい言い回しはどこにも無いが、作者の、あるいは読者も含めて、生きているものが等しく感じる「喜び」を歌いあげてくれた句だと思った。(本井 英)

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