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踏青や矢倉岳金時山晴れ渡り 児玉和子

 季題は「踏青」。傍題には「青きを踏む」「あをきふむ」などがあるが、「踏青」と漢語風に表現するとやや硬い感じと共に、古代以来の年中行事としての「野遊び」の気分も漂う。「矢倉岳金時山」を「やぐら・きんとき」と読ませるのは短詩型としては無理のない省略で、実際、山に親しんでいる人々の間では、そのように呼ばれているのであろう。丁度相模の国の中ほどから眺めると駿河の国との国境稜線の方角に、まことに特徴的な山容をもって突出している二峰で一度教わったら忘れられない。いよいよ春になったという喜びと、これからの季節を山野に親しもうとの作者の楽しい心の裡も思われる。(本井 英)

雑詠(2023年7月号)

踏青や矢倉岳(ヤグラ)金時山(キントキ)晴れ渡り	児玉和子
国分寺跡の青きを踏みにける
勢揃ひして葉牡丹の茎立てる
ふらここを漕げばきゆるきゆる鎖鳴る

不揃ひの石段険し立浪草	前田なな
家毎に若木を育て梅の里	北村武子
埼玉の群馬に近き暑さかな	前北かおる
講堂の天井高し卒業式	矢沢六平

課題句(2023年7月号)

「キャンプ」			塩川孝治 選

酒よりもコーヒー愉しキャンプ場	小沢藪柑子
一人用テント二タ 張りキャンプかな

校庭にキャンプの夜や親子会		磯田和子
寝袋の中より寝息キャンプ村		飯田美恵子
明け方の沢音激しキャンプ場		坂 廣子
早起きの灯の点きそむるキャンプかな	本井 英

主宰近詠(2023年7月号)

小園逍遙   本井 英

半夏生その一刷毛のはじまりし

仰ぐ薔薇見下ろす薔薇とありにけり

ちりちりと花穂もすでに半夏生

河骨の黄に赤手蟹ことしまた

河骨の水へと闇の解けそめし

半夏生の飛び移りたる白の色

十薬の茎伸びきりてふらふらす

色得つつありて式部の蕾たり

ついりせしよと磯鵯の高らかに

赤手蟹の爪先は白梅雨に入る

夏椿雨をよろこび幹ひからせ

濃淡や散りひろごりて海紅豆

風車なして白花夾竹桃

十薬の八重咲きなれば引かれずに

沢瀉の若葉ながらのそのかたち

吾亦紅若葉濃うなる雨の中

ラティス張り了へて薔薇植う心組み

誇らかに白を掲げて半夏生

半夏生えやみのごとく白とばし

若葉雨過ぐテラコッタ生乾き