五月晴 本井 英 半夏生まぶしき白を掲げたる 半夏生の白にくもりの見えそめし 十薬の葉の錆色を好もしと 虎ヶ雨降り込む闇の底知れず 広重の画をた走るも虎ヶ雨 一庵の聾しひるまで虎ヶ雨 虎ヶ雨泣いて疲れて寝落ちたり 泣き伝へ語り伝へて虎ヶ雨 虎御前の顔白き五月闇 この声が電気喉頭梅雨寒し
海の町にせまる裏山五月晴 海の町に小さき魚屋五月晴 にじみ浮く白雲のあり五月晴 山の湖の権現様の茅の輪かな 夏蝶の黒のはばたき浮かむとす 腹に当たり肋を撫でて風涼し 朝日いま河骨の黄をさぐり射し のうぜんに退潮といふ花のかず 白波を敷きかさねたる涼しさよ 海の家へと月曜の朝の風