主宰近詠(2023年8月号)

五月晴   本井 英

半夏生まぶしき白を掲げたる

半夏生の白にくもりの見えそめし

十薬の葉の錆色を好もしと

虎ヶ雨降り込む闇の底知れず

広重の画をた走るも虎ヶ雨

一庵の聾しひるまで虎ヶ雨

虎ヶ雨泣いて疲れて寝落ちたり

泣き伝へ語り伝へて虎ヶ雨

虎御前の顔 白き五月闇

この声が電気喉頭梅雨寒し


海の町にせまる裏山五月晴

海の町に小さき魚屋五月晴

にじみ浮く白雲のあり五月晴

山の湖の権現様の茅の輪かな

夏蝶の黒のはばたき浮かむとす

腹に当たり肋を撫でて風涼し

朝日いま河骨の黄をさぐり射し

のうぜんに退潮といふ花のかず

白波を敷きかさねたる涼しさよ

海の家へと月曜の朝の風

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