月別アーカイブ: 2023年9月

課題句(2023年9月号)

課題句「水澄む」  釜田眞吾 選

比叡八瀬滔々洛中水澄める		岩本桂子
御僧は留守看脚下水澄みて

水音に耳を澄ませば水澄めり		山内裕子
何処やら澄む水音と樹々の影		伊藤八千代
水澄める街のスナック客また来		青木百舌鳥
里人の清水(ショーズ)と称へ水澄めり	本井 英
					

雉子啼く喉に力を入れて啼く 北原みゆき

 季題は「雉子」。「きじ」とも呼べば、「きぎす」ともいう。筆者が自覚的に雉の声を聴いたのは、随分大人になってからのこと。それまで知識として和歌に詠まれたものや、あるいは「雉も啼かずば撃たれまい」のような諺では、知ってはいたが、雄の雉が、二声づつ、もの悲しげに啼く声を知ってからは、特別の心の揺れを覚えるようになった。そして富山、呉羽山で聴いた「雉」の、ちょっともの悲しげな、そして遠くまで聞こえる「あの声」は今でも、耳に甦る。この句の魅力の在りどころは、「啼く」の繰り返し。先ず一度「啼く」と提示しておいて、さらに重ねて、「喉に力を入れて」と繰り返す。そこに雌の雉を慕う、「雉の夫」の切ない気分が否応なく籠められている。作者の心が「雉の夫」に「ひたっ」と寄り添っていることが判る。(本井 英)

雑詠(2023年9月号)

雉子啼く喉に力を入れて啼く		北原みゆき
樟脳のにほひの形見春深む
半開きの厩舎の中へ燕かな
忍冬の花の黄色に変はる時
蛇衣を脱ぎて伸び〳〵したるらん	児玉和子
メーデーのデモ信号で膨らみぬ		山内裕子
花よりも莟を高う貴船菊		藤永貴之
羊羹のごとき池面に蛭蓆		稲垣秀俊

主宰近詠(2023年9月号)

海の家   本井 英

朝涼の浜を領してビルの影

青く塗り桃色に塗り海の家

海の家より起き出してくる男

海の家見知らぬ国旗掲ぐるも

貸浮輪にマジックで書く屋号かな

日焼して大胸筋が自慢にて

夏潮を航く五馬力か二馬力か

海の家にも片蔭の生まれそむ

遠泳の赤灯台の今日は遠し

夏潮や水を怖るる病後の身


中干しの真つ只中の青田かな

向日葵の一 本愉快そうでもなく

土は灼け石さらに灼け道をしへ

ほの暗く氷室の神の祀らるる

草刈機途絶えてよりの村の音

ビーバーの刈り残したる野萱草

赤ぞれのぞれの由々しや雲は夏

夏雲や群馬側から湧きのぼり

柳蘭蕾の塔を誇るかな

闌くるとは色を得ること吾亦紅