課題句「山雀」 矢沢六平 選 山雀の名前覚えてより親し 天明さえ 山雀のいつも見上げてゐたるかな 小沢藪柑子 山雀の首かたむけてゐたりけり 永田泰三 山雀や伊香保温泉飲泉所 前北かおる 山雀の頭でつかちとも見ゆる 児玉和子
課題句(2022年10月号)
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課題句「山雀」 矢沢六平 選 山雀の名前覚えてより親し 天明さえ 山雀のいつも見上げてゐたるかな 小沢藪柑子 山雀の首かたむけてゐたりけり 永田泰三 山雀や伊香保温泉飲泉所 前北かおる 山雀の頭でつかちとも見ゆる 児玉和子
季題は「空梅雨」。虚子は「天候の不順な年は、梅雨のうちに殆ど雨が降らないことがある。これを空梅雨といふ。農家では田植など出来ず非常に困ることがある」と『新歳時記』で解説する。近年ではさまざまの治水技術が向上して、少々の「空梅雨」は何とか実質被害を出さずに乗り切れる場合が少なくないが、江戸時代まではそうもいかず、国を挙げて深刻な事態となっていたに違いない。例えば歌舞伎芝居の「鳴神」の話の背景など、こうした「空梅雨」が背景にあってのもので、雲の絶間姫の真剣さも、万民の憂いあってこそのものと思いたい。
さて掲出句は、その「空梅雨」という季題を、あっさりと、そして客観的に叙したところに新鮮さがある。毎日毎日、空を見上げると、「雲」はあるものの、どれも軽々と「平たく」、とても雨をもたらすような様子には見えないというのである。ということは、我々は、「黒々と」、天高く立ち上がる「雲」、たとえば「入道雲」のようなものには、「雨」を期待するわけである。そんな対比を言外にこめながら、「空」の景を述べているのである。(本井 英)
空梅雨や空に平たき雲ばかり 梅岡礼子 二十本の包丁研ぎて梅雨晴間 黒塀の外にも洩れて竹落葉 草刈器唸り立てるを宥めつつ 巢箱から蛇いうぜんと木に移り 坂 廣子 夜行列車短夜を抜け到着す 塩川孝治 乾坤の俄に暗み夕立来 岩本桂子 溝浚ふ横を空港バス走る 山内裕子
影の黒 本井 英 猫扉しつらへてある網戸かな 網戸ごしの自動織機のけたたまし 水亭の廊のなぐりを足裏に 鼈の訪 ひよれる泉殿 拍手の音の乾ける日の盛り 富士塚に登り賽するパナマ帽 菖蒲田にいたいたしくも咲き残り 大皿にいくつ西瓜のピラミッド 日照雨過ぎたり新松子あらひあげ 水着よく似合ふおでこのをんなのこ
おしろいや水道路の謂れなど 蟬声の貼りついてゐる切り通し 藪からしと玉巻く葛と糾へる 黒蝶の黒瑠璃蝶の影の黒 流れゆく雲とは別に雲の峰 姥百合の咲くや吹聴するやうに もう法師蟬がと独り言ちにける 倒木の根の乾らびゆく土用かな 無患子を屈み拾ふや膝そろへ かく日焼しつつ傘寿を目指さんと