主宰近詠(2022年10月号)

影の黒   本井 英


猫扉しつらへてある網戸かな

網戸ごしの自動織機のけたたまし

水亭の廊のなぐりを足裏に

鼈の(オトナ)ひよれる泉殿

拍手の音の乾ける日の盛り

富士塚に登り賽するパナマ帽

菖蒲田にいたいたしくも咲き残り

大皿にいくつ西瓜のピラミッド

日照雨過ぎたり新松子あらひあげ

水着よく似合ふおでこのをんなのこ


おしろいや水道路(スイドウミチ)の謂れなど

蟬声の貼りついてゐる切り通し

藪からしと玉巻く葛と糾へる

黒蝶の黒瑠璃蝶の影の黒

流れゆく雲とは別に雲の峰

姥百合の咲くや吹聴するやうに

もう法師蟬がと独り言ちにける

倒木の根の乾らびゆく土用かな

無患子を屈み拾ふや膝そろへ

かく日焼しつつ傘寿を目指さんと