影の黒 本井 英 猫扉しつらへてある網戸かな 網戸ごしの自動織機のけたたまし 水亭の廊のなぐりを足裏に 鼈の訪 ひよれる泉殿 拍手の音の乾ける日の盛り 富士塚に登り賽するパナマ帽 菖蒲田にいたいたしくも咲き残り 大皿にいくつ西瓜のピラミッド 日照雨過ぎたり新松子あらひあげ 水着よく似合ふおでこのをんなのこ
おしろいや水道路の謂れなど 蟬声の貼りついてゐる切り通し 藪からしと玉巻く葛と糾へる 黒蝶の黒瑠璃蝶の影の黒 流れゆく雲とは別に雲の峰 姥百合の咲くや吹聴するやうに もう法師蟬がと独り言ちにける 倒木の根の乾らびゆく土用かな 無患子を屈み拾ふや膝そろへ かく日焼しつつ傘寿を目指さんと