「鳥帰る」 藤森 荘吉 選 鳥帰る空の先にも空のある 小沢藪柑子 よく晴れた空を選んで鳥帰る 鳥帰るもう暮れかけてゐる空を 世界一大きな機体鳥曇 前北かおる 鳥帰る船荷あらかた積み終へて 梅岡礼子 我の立つ岬の先に鳥帰る 永田泰三 リハビリの背筋伸ばせば鳥帰る 関口直義
課題句(2022年3月号)
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「鳥帰る」 藤森 荘吉 選 鳥帰る空の先にも空のある 小沢藪柑子 よく晴れた空を選んで鳥帰る 鳥帰るもう暮れかけてゐる空を 世界一大きな機体鳥曇 前北かおる 鳥帰る船荷あらかた積み終へて 梅岡礼子 我の立つ岬の先に鳥帰る 永田泰三 リハビリの背筋伸ばせば鳥帰る 関口直義
季題は「暮の秋」。「秋」の末頃という意味で、「秋の暮」とは違う。「返納」、これだけではさまざまの場合があって、不分明の謗りを免れないようにも見えるが、「ドライブ」という言葉から、近年話題となっている、「高齢者」による「自動車運転免許証」の「自主返納」のことであるらしいことは凡そ見当がつく。読み手が「多分そんなことであろう」と、ある程度の自信をもって想像できたら、それで良い。「返納」という言葉自体は、さまざまな場面で使用されるであろう。だから「いや、こんな場合だってあるだろう」、「こんな可能性だって否定出来ない」などとマイナスの可能性を云々する読者は、俳句には向いていない。「俳句」は出来るだけ「善意」をもって接するべきものだからである。
さてハンドルを握っているのは作者でも構わないが、場面としては、それなりにお年を召した男性であって欲しい。
助手席には当然のようにその「細君」。さまざまの判断があって、いよいよ明日には「免許証」を返納することとなって、最後の「ドライブ」に出掛けたのだ。行く先は「箱根」とか「日光」とか。もしかしたら、二人がまだ一緒に暮らすようになる前に訪れた景勝地かも知れない。あれから何十年経ったのだろう。「あのドライブの日」には錦繍を綴るようだった「紅葉」も、今日はすっかり色褪せて、「冬」がもうそこまで来ている。「ああ、時はこうして……」と思わずにはいられない作者の心の裡が厭というほど判る。(本井 英)
返納を前にドライブ暮の秋 田中幸子 砦跡一足毎に飛蝗散り 街路樹の変はり南京櫨紅葉 山茶花の白紅混じり落葉籠 良き子等と良き父母の七五三 塩川孝治 急磴を谷へおりゆく寒さかな 田中温子 顔を見ず話せるどうし水温む 藤永貴之 ケアの車止りて居りぬ花八手 岩本桂子
侘しかりけん 本井英不機嫌が許されし世や漱石忌 駒場なる一二郎池漱石忌 霜解の靴跡のまま乾きたり 見廻して冬芽にぎやか庭狭み 老いてなほ期することあり冬芽仰ぐ
みやと啼きみやと応へて都鳥 紅灯になづみて今宵薬喰 到来の猪肉放つ血の香かな クレーンで降ろす作業車川涸るる 寒かりけん侘しかりけん国分尼寺
寒禽はあらはの枝を杼のごとく 同乗の救急車より年の瀬を 年の瀬のあれやこれ逃げたきことも 聖夜劇のマリアの少女利発さう 煤逃や合切袋ひとつ提げ
煤逃の白髪を笑ひ合ひにけり 凍瀧へ昼のチャイムの村を抜け 一瀑の凍てなんとある総身かな 瀧水や氷の裏を綴り落ち 待ちまうけをりしが如く笹鳴くよ