主宰近詠(2022年3月号)

 侘しかりけん  本井英

不機嫌が許されし世や漱石忌

駒場なる一二郎池漱石忌

霜解の靴跡のまま乾きたり

見廻して冬芽にぎやか庭狭み

老いてなほ期することあり冬芽仰ぐ



みやと啼きみやと応へて都鳥

紅灯になづみて今宵薬喰

到来の猪肉放つ血の香かな

クレーンで降ろす作業車川涸るる

寒かりけん侘しかりけん国分尼寺



寒禽はあらはの枝を杼のごとく

同乗の救急車より年の瀬を

年の瀬のあれやこれ逃げたきことも 
    
聖夜劇のマリアの少女利発さう

煤逃や合切袋ひとつ提げ



煤逃の白髪を笑ひ合ひにけり

凍瀧へ昼のチャイムの村を抜け

一瀑の凍てなんとある総身かな

瀧水や氷の裏を綴り落ち

待ちまうけをりしが如く笹鳴くよ

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