主宰近詠」カテゴリーアーカイブ

主宰近詠(2022年7月号)

おへそが見えて   本井 英

牡丹の蕾緑を湛へそむ

高架線ホームにありて花の昼

鯉沈むとき花筏巻きこめる

クロネコのリヤカー便や雪柳

花曇ウエットスーツ干しつらね



寝ころんでゐる老人も磯あそび

葉牡丹の長じてつひひに咲けりけり

一身を煽りて海月ややすすむ

智恵貰玉虫色の紅さして

山繭や常念坊も姿消し



娘さんのおへそが見えて蝶の昼

八重桜雨にほとびて揺るるなく

すまり咲く山椒の黄の静かさよ

岩煙草あつかんべえと若葉垂れ

方丈に隣る典座の遅桜



茶を啜る音の大きく蓬餅

員数のととのひたりし蔦若葉

ボクシングジムの四隅の扇風機

山吹の蕚幾十散り残り

枝の蛇日のぬくとさに身じろがず

主宰近詠(2022年6月号)

野に咲けば   本井 英

春めくや釣堀からも人の声

初島も見ゆ梅の坂登りきり

薄埃かうむりながら蜷すすむ

八橋に屈めば蜷の道真下

蜷の道ひき返すことあるべしや



蜷の髭短きことも愛らしく

雨吸うて土たのもしや名草の芽

春眠へいま堕ちてゆく五体かな

春眠の甘さ瞼になほ残り

蔦の影たどれば蔦の芽の影も



浜へ川細り浜大根の花

野に咲けば野の明るさに福寿草

極楽洞とよ春の闇蟠り

巣作りの鴉や甘き声こぼし

蕾そろそろ二輪草畳なし



浜へ川細り浜大根の花

野に咲けば野の明るさに福寿草

極楽洞とよ春の闇蟠り

巣作りの鴉や甘き声こぼし

蕾そろそろ二輪草畳なし

主宰近詠(2022年5月号)

島定食    本井 英

ゆるゆると春立つメンデルスゾーン

春が来ましたと河面を上る浪

きつぱりと立春といふ言葉あり

紅梅の咲けばにはかに紅うすし

その後の敷島の道実朝忌



焼き玉の音へと春の丘下る

春の水よぢれほぐれて囁ける

蜷の道流れ横切るとき太し

蜷が身をゆするたび砂ながれけり

蜷に髭ありて見えたり見えなんだり



浜芝に襁褓換へをりあたたかし

歌枕いくつたづねて三千風忌

三千風忌修することも愉しさに

コンビニといふもののなく島の春

磯遊にはあやにくのけふの風



海坂の裏には春の島いくつ

春の日をあびて磯鵯男伊達

壺焼を副へて島定食となん

花アロエ鮑の殻を灰皿に

チューリップ寄せ植ゑにしてさらに愉し

主宰近詠(2022年4月号)

父の代の   本井 英

父の代の松飾には如かざれど

食積が卓の真中にそびえたり

食積をのぞきに来ては子供たち

遠来の孫娘より屠蘇を酌む

賀状なほ四半世紀を会はざるに



宝引の緒の這つてゐる疊かな

綱引やちらちら白いものも舞ひ

墓地通り抜けて七福詣かな

福詣とよ寺町に人通り

韋駄天は福神ならね詣でけり



初場所の向正面なる女

素手の子の一人まじれる雪まろげ

冬ざれて一花とてなき母の墓

枯葎襖なしたり滑川

川床を拾ひ歩きや寒最中



寒鯉の影寒鯉の腹の下

寒肥やいちいち話しかけながら

路地に日のあふれ果して寒梅も

春を待つべし池に棲み川に棲み

難題をかかへ込みつつ春を待つ

主宰近詠(2022年3月号)

 侘しかりけん  本井英

不機嫌が許されし世や漱石忌

駒場なる一二郎池漱石忌

霜解の靴跡のまま乾きたり

見廻して冬芽にぎやか庭狭み

老いてなほ期することあり冬芽仰ぐ



みやと啼きみやと応へて都鳥

紅灯になづみて今宵薬喰

到来の猪肉放つ血の香かな

クレーンで降ろす作業車川涸るる

寒かりけん侘しかりけん国分尼寺



寒禽はあらはの枝を杼のごとく

同乗の救急車より年の瀬を

年の瀬のあれやこれ逃げたきことも 
    
聖夜劇のマリアの少女利発さう

煤逃や合切袋ひとつ提げ



煤逃の白髪を笑ひ合ひにけり

凍瀧へ昼のチャイムの村を抜け

一瀑の凍てなんとある総身かな

瀧水や氷の裏を綴り落ち

待ちまうけをりしが如く笹鳴くよ