主宰近詠」カテゴリーアーカイブ

主宰近詠(2025年2月号)

記念写真も   本井 英

三連符なしたり烏瓜真っ赤

蕎麦搔を雨の無聊に作らんか

日向ぼこ進行中の病ひなく

川風のたゆむ辺りの浮寝かな

屯してをれどてんでんヒドリガモ

花瓶立てしやうに白鷺川の冬

牡蠣船の急階段の手摺かな

牡蠣船の障子が開いて閉じにけり

ジーナといふ娘の話ペチカ燃ゆ

藁仕事足の指にも役のある


日帰り湯とて繁盛や年木積む

広尾とはポインセチアの似合ふ町

海桐の実割れて内蔵あからさま

痩せてゆく高麗山あとは眠るばかり

枝の目白仔細は見えず色ばかり

短日の青鷺糞りて無表情

冬日燦出窓の猫がこちら見て

老いてなほ落葉溜りを蹴る楽し

蕪村忌の記念写真もこと古れる

主宰近詠(2025年1月号)

雪国の殿様   本井 英

お塔婆を書いて並べて万年青の実

雪国の殿様たりき杞陽の忌

円山川文明のこと杞陽の忌

テニスが好きでスキーが好きで杞陽の忌

ディズニーの手前の舟は鯊釣るにや

寒々と鴉罠建つ疎林かな

血の色の烏瓜かな冬に入り

半島や大根畑平らけく

凩が堆肥舎をゆるがせる音

凩に湖面ささくれ立つてをり


本郷に金魚坂あり一葉忌

つはぶきの黄の日向なる日陰なる

原木と呼ばるゝ茶の木花盛り

塔頭のこゝにありきと茶の咲ける

枯蟷螂ゆるるゆるると日表に

枯れ残る眼みどりにいぼむしり

鳰きびしよの如し潜くなく

万両の実のあをあをも良からずや

真葛かな仰がるゝ覗かるゝ

落葉径ほとびわたりて香りけり

主宰近詠(2024年12月号)

混群   本井 英

皀角子の実を(ツノ)となし髥となし

なほしばし古酒をもて嗜みにけり

色鳥や我が見てをるを知つてをり

今朝も来るこの色鳥の名を知らず

ひねもすを脚立乗り降り林檎穫る

群れ鹿や牧のあなたを流れける

釦止めても衿を立てても泠まじや

黄に咲くや鉄道草と蔑まれ

山雀の神籤や固く巻かれたる

山雀の神籤ちりりと鈴も鳴り


仰ぎつつ混群のこと語る人   
        「混群」は「小鳥来る」の傍題としたい。 
木犀の莟そろへて香るなく

神田川をいま天牛が飛んで渡る

ビルの底に首塚はあり秋の暮

銚釐(チロリ)とはそもなつかしや温め酒

ご存命かどうかは知らず温め酒

どつさりと渋柿といふたたずまひ

葛の実や華やかならずあからさま

誅殺の世とてありけり谷戸の秋

十二所の名もゆかしさや里の秋

主宰近詠(2024年11月号)

学習田   本井 英

片陰へすりよつてゆく歩みかな

片陰の幅ひろければ一寸うれし

ひとかけらの午睡木蔭のテラス席

見学の列のかたはら三尺寝

蛭蓆みつしり敷いて学習田

青柿に学生寮はなほ()さず

鉄塔の碍子きらきら秋暑し

蒼然と給水塔や秋暑し

狗尾草の撫でてをるなり力石

螢草萎むや急に雲暗く


人の秋けふの句会に顔見えず

息長く吹く秋風や森の径

風は秋窶すにあらず窶れ歩す

母校なる秋の蚊に待ち設けられ

藷の葉やマルチシートは盛り上がり

老の目に今年の曼珠沙華淡し

爽涼の山小屋風のチャペルにて

落し水遅れてをりぬ学習田

学習田言ひ訳ほどに稔りたり

五つまで仰ぎ数へて通草の実

主宰近詠(2024年10月号)

立子なつかし   本井 英

その伯母の墓参で出会ふばかりなる

バラストを棲処とさだめゑのこ草  

碑に飽いて秋の暑さの百花園

行き当たるけうげん塚や秋暑し

案の如く垂るる蛇瓜百花園

台風の自転車ほどの速度てふ

落命する人かならずや台風来

野に潜む獣らに台風来るぞ

台風を綽名で呼ぶは馴染めざる

なんとなく立子なつかし男郎花


寡黙なることをよろしと男郎花

蜉蝣のただやう高さ瀬を早み

蜉蝣の骸降り積み山の橋

千草分けゆく向かう臑こそばゆき

いきどほり千草を歩して静めけり

踏切の鐘もかろらか秋めける

渓底に一径のあり秋めける

衣被長女がやつてきて茹でし

衣被頭をちよんと刎ねてある

しらびその森霧雫とめどなや