隠さうべしや 本井 英 影躍るロールカーテン小鳥来る 河床の真闇をたどり鰻落つ 涯もなき旅路をかかへ鰻落つ 殺生の果ての旅路へ落鰻 戦没者墓苑の桜紅葉かな お塔婆を書くも日課や万年青の実 ひそひそと叔父の用談万年青の実 併走の列車の灯り秋の暮 この雨に傾がざるなき紫菀かな 本店の「すや」の二文字栗の秋
稻雀帳のやうに降りるとき ここいらに国府とてあり草紅葉 好き漢なるよ「懸巣」と綽名され 女郎蜘蛛揺られながらも躙るなく おとろひを隠さうべしや男郎花 浮かび飛ぶ蜂雀の吻見ゆるかな 虹の輪の大きく欠けてゐるあたり 朝虹や噴き出すやうに地より立ち 沖空のまたまツ黒や時雨れんと 穭びつしり足下より遥かまで