主宰近詠(2023年12月号)

隠さうべしや     本井 英

影躍るロールカーテン小鳥来る

河床の真闇をたどり鰻落つ

涯もなき旅路をかかへ鰻落つ

殺生の果ての旅路へ落鰻

戦没者墓苑の桜紅葉かな

お塔婆を書くも日課や万年青の実

ひそひそと叔父の用談万年青の実

併走の列車の灯り秋の暮

この雨に傾がざるなき紫菀かな

本店の「すや」の二 文字栗の秋


稻雀帳のやうに降りるとき

ここいらに国府とてあり草紅葉

好き漢なるよ「懸巣」と綽名され

女郎蜘蛛揺られながらも躙るなく

おとろひを隠さうべしや男郎花

浮かび飛ぶ蜂雀の吻見ゆるかな

虹の輪の大きく欠けてゐるあたり

朝虹や噴き出すやうに地より立ち

沖空のまたまツ黒や時雨れんと

穭びつしり足下より遥かまで