拳ほど 本井 英 世界中に炎天やわが頭上また 盆過ぎの波の高さに浜せまし 仲たがひの母娘扇とサングラス 浴びせくる言葉扇で払ひつつ 駅前は予備校ばかり町溽暑 閑散と小学校や盆も過ぎ いぢめつこゐたころのこと法師蟬 夏雲の湧いてころげて拳ほど とんぼうに厳然とある水面かな 小蛇渡るよかそけくも波をたて
移築せし上がり框に風涼し 藁葺の藁かはききり臭木咲き 大風ありけむ無患子の青が散り 険悪や入道雲の腰回り 雷蔵しどろんと黒き雲の腹 一疵なき芭蕉葉とうち仰ぐなり 芭蕉葉の触れ合ふ音に夜の更くる もう大根蒔き了へしよと漁師どち その漁師日焼の耳のよく動き ときの来て月の桂子召されたり