主宰近詠(2023年10月号)

拳ほど  本井 英

世界中に炎天やわが頭上また

盆過ぎの波の高さに浜せまし

仲たがひの母娘扇とサングラス

浴びせくる言葉扇で払ひつつ

駅前は予備校ばかり町溽暑

閑散と小学校や盆も過ぎ

いぢめつこゐたころのこと法師蟬

夏雲の湧いてころげて拳ほど

とんぼうに厳然とある水面かな

小蛇渡るよかそけくも波をたて
移築せし上がり框に風涼し

藁葺の藁かはききり臭木咲き

大風ありけむ無患子の青が散り

険悪や入道雲の腰回り

雷蔵しどろんと黒き雲の腹

一疵なき芭蕉葉とうち仰ぐなり

芭蕉葉の触れ合ふ音に夜の更くる

もう大根蒔き了へしよと漁師どち

その漁師日焼の耳のよく動き

ときの来て月の桂子召されたり(  悼 岩本桂子さま) 

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