暗渠より運河へ注ぐ水温む   塩川孝治

 季題は「水温む」。春になって、川や池の水がおのずから温んでくる状態である。「暗渠」は、本来川の流れであった場所に蔽いを掛けるようにして出来た地下水道。その上は道になっている場合が多い。「運河」は陸地を掘って造った水路。ただし、東京湾のように沖へ沖へ埋め立てて行くと、その間に取り残された水面が、結果として「運河」となる場合もある。 

 作者はそんな都会の風景の真っ直中で、「運河」へ「暗渠」の水が流れ込んでいる現場を見かけた。その、いかにも大都会にありそうな景色の中で、作者は「その水」を「温む」と見たのである。「いわゆる自然」など、一欠片も無い景色の中にも「四季の運行」を感じているわけだ。

 さらに空想を逞しくすれば、今でこそ大都会の「殺風景」なコンクリづくめの景色となってしまったこの辺りも、三百年、四百年前には山奥から丘に沿って流れ下った「春の水」が、ゆたに湛える「海」に流れ込んでいた場所であったかもしれない。作者の脳裏に、その景が浮かんだかどうかは別にして、眼前の「水」を「温む」と見た瞬間に、作者の魂は数百年前の「何か」を感じとっていたに違いない。(本井 英)

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