主宰近詠(2015年10月号)

止め掻き          本井英

向日葵の天辺がまだ覗きこめ

さくと引く漆鉋の音かわく

漆掻真一文字に口結び

古溝の黒々とあり漆掻

漆伐り倒し止め掻き仕る



滴りのたまらず紐となるあたり

滴りや陳 者(ノブレバ) 山の心斯く

蜜豆の求肥や色もやはらかく

蜜豆や女の絆侮れず

赤富士へ別荘村を出はづれし



赤富士や釣人すでに湖の上

箱庭に牛小屋があり牛がをり

箱庭の船頭口を開けたまま

箱庭の小瀧に耳をすませたり

氷川丸の煙突低し丘茂り



昂らぬ音こそ佳けれ造瀧

大人しくしてゐる松を手入れせる

暑に耐ふや所作緩慢を心がけ

冷房のバスの窓より町を人を

蜩の鳴き加はれば沼を辞す