課題句 「芹」 原 昌平 選 芹の水この辺はまたクレソンが 藤永貴之 芹の上にわが影落ちぬ蟹現れぬ 芹摘みし手を高く振り芹も見せ 牧野伴枝 野歩きの昼のラーメン芹入れて 塩川孝治 芹生ふる府県境の峠かな 小沢藪柑子 芹の香の真つ只中に芹刻む 前北かおる
課題句(2023年3月号)
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課題句 「芹」 原 昌平 選 芹の水この辺はまたクレソンが 藤永貴之 芹の上にわが影落ちぬ蟹現れぬ 芹摘みし手を高く振り芹も見せ 牧野伴枝 野歩きの昼のラーメン芹入れて 塩川孝治 芹生ふる府県境の峠かな 小沢藪柑子 芹の香の真つ只中に芹刻む 前北かおる
季題は「橡の実」。虚子編『新歳時記』には、「栃の実である。円錐状をして三裂し、その中に光沢のある褐色の大きな種子がある。この種子から澱粉を採つたり橡餅等をつくつたりする。」とある。「橡餅」と言えば信州の観光地などでは、よくお土産などにされる品だが、あれは餅米などと搗き合わせた高級品で不味いわけがない。巴里の街路樹として有名な「マロニエ」は「西洋橡」。その実は日本の「橡」と同じ様な種子が入っており、まさに「マロン」なわけだが、毒があって食えぬ(灰汁抜きの技術がないと駄目らしい)ということになっている。フランスの「栗」は「シャテニエ」、こちらは立派な毬のある実である。
その「橡の実」が橡の木立の下に、幾つも落ちていたのであろう。その「果肉」が割れて中の種子が転がり出ている様子を作者は「ぱつかと」と表現した。一句の手柄は勿論この「ぱつかと」であることは間違いない。「ぱかつと」、ではないのである。「ぱかつと」は「音」が主だが、「ぱつかと」は「姿」が主である。「種子」が転がり出た後の、空ろになった実の内側の曲面まで見えてくる。(本井 英)
橡の実のぱつかと割れて転がれる 山本道子 空ラの胴と翅を遺して蟬骸 仙人草剣ケ峰より富士現れて 蟬時雨森を出づれば墓所のあり チーチチとチチと遠のき囀れる 信野伸子 まはりこみ鶺鴒恋の羽ひろぐ 藤永貴之 戸田芝の穂の紫に冬の雨 児玉和子 一点の色は翡翠冬の雨 天明さえ
主は来ませり 本井 英 島山にして絶海に眠るなる 深々と切通しあり山眠る お薬師さま里へ下ろして山眠る 山眠れば歩荷仕事も無くなりて 炉話に指失ひし事故のこと 炉明りに膝逞しき娘かな 顔見世や昔は見えし男山 営林署の冷蔵庫より山鯨 大皿を覆ひて赤し牡丹肉 連れだつとなく離れざる鳰
鳰の目の冷淡さうに見ゆるとき 源流とて落葉の下の水の音 棕櫚の芽ぞ落葉畳を青く抽き 靴の腹で掻いて楽しき落葉かな 蜷擱坐したり冬日は天にあり 山雀の声の遠さよ枯木谷 鎌倉のほんに今年の冬紅葉 冬紅葉母の独りの墓に降る 蒲の穂は崩れほつれて戦ぐなる 主は来ませりと千両も万両も