主宰近詠(2023年3月号)

主は来ませり      本井 英

島山にして絶海に眠るなる

深々と切通しあり山眠る

お薬師さま里へ下ろして山眠る

山眠れば歩荷仕事も無くなりて

炉話に指失ひし事故のこと

炉明りに膝逞しき娘かな

顔見世や昔は見えし男山

営林署の冷蔵庫より山鯨

大皿を覆ひて赤し牡丹肉

連れだつとなく離れざる鳰


鳰の目の冷淡さうに見ゆるとき

源流とて落葉の下の水の音

棕櫚の芽ぞ落葉畳を青く抽き

靴の腹で掻いて楽しき落葉かな

蜷擱坐したり冬日は天にあり

山雀の声の遠さよ枯木谷

鎌倉のほんに今年の冬紅葉

冬紅葉母の独りの墓に降る

蒲の穂は崩れほつれて戦ぐなる

主は来ませりと千両も万両も

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