主宰近詠」カテゴリーアーカイブ

主宰近詠(2023年9月号)

海の家   本井 英

朝涼の浜を領してビルの影

青く塗り桃色に塗り海の家

海の家より起き出してくる男

海の家見知らぬ国旗掲ぐるも

貸浮輪にマジックで書く屋号かな

日焼して大胸筋が自慢にて

夏潮を航く五馬力か二馬力か

海の家にも片蔭の生まれそむ

遠泳の赤灯台の今日は遠し

夏潮や水を怖るる病後の身


中干しの真つ只中の青田かな

向日葵の一 本愉快そうでもなく

土は灼け石さらに灼け道をしへ

ほの暗く氷室の神の祀らるる

草刈機途絶えてよりの村の音

ビーバーの刈り残したる野萱草

赤ぞれのぞれの由々しや雲は夏

夏雲や群馬側から湧きのぼり

柳蘭蕾の塔を誇るかな

闌くるとは色を得ること吾亦紅

主宰近詠(2023年8月号)

五月晴   本井 英

半夏生まぶしき白を掲げたる

半夏生の白にくもりの見えそめし

十薬の葉の錆色を好もしと

虎ヶ雨降り込む闇の底知れず

広重の画をた走るも虎ヶ雨

一庵の聾しひるまで虎ヶ雨

虎ヶ雨泣いて疲れて寝落ちたり

泣き伝へ語り伝へて虎ヶ雨

虎御前の顔 白き五月闇

この声が電気喉頭梅雨寒し


海の町にせまる裏山五月晴

海の町に小さき魚屋五月晴

にじみ浮く白雲のあり五月晴

山の湖の権現様の茅の輪かな

夏蝶の黒のはばたき浮かむとす

腹に当たり肋を撫でて風涼し

朝日いま河骨の黄をさぐり射し

のうぜんに退潮といふ花のかず

白波を敷きかさねたる涼しさよ

海の家へと月曜の朝の風

主宰近詠(2023年7月号)

小園逍遙   本井 英

半夏生その一刷毛のはじまりし

仰ぐ薔薇見下ろす薔薇とありにけり

ちりちりと花穂もすでに半夏生

河骨の黄に赤手蟹ことしまた

河骨の水へと闇の解けそめし

半夏生の飛び移りたる白の色

十薬の茎伸びきりてふらふらす

色得つつありて式部の蕾たり

ついりせしよと磯鵯の高らかに

赤手蟹の爪先は白梅雨に入る

夏椿雨をよろこび幹ひからせ

濃淡や散りひろごりて海紅豆

風車なして白花夾竹桃

十薬の八重咲きなれば引かれずに

沢瀉の若葉ながらのそのかたち

吾亦紅若葉濃うなる雨の中

ラティス張り了へて薔薇植う心組み

誇らかに白を掲げて半夏生

半夏生えやみのごとく白とばし

若葉雨過ぐテラコッタ生乾き

主宰近詠(2023年6月号)

永久気管孔   本井 英


眩しさや虚子忌の朝を目覚めつつ

虚子忌またピカソ忌なりと知らざりき

また新たな癌との出会ひ春愁ひ

春愁の流動食よ嚥下食よ

良き患者たらんと暮らし春愁ひ

朝寝の吾を天井から見下ろせる吾

唄ふやうに語る看護婦春ふかし

遠足の今ちりぢりや由比ヶ浜

遠足のどの子も鳩サブレー提げて

遠足の班別行動片思ひ


遠足バス教頭先生人気なく

夏は来ぬのみどを抉り取りし身にも

明易の喀痰生きてある証し

明易の永久気管孔とは笑止

もどり得たりし我が庭や春ふかき

十薬の蕾つぶつぶ吾を迎へ

葉を分けて深窓の青梅となん

河骨の黄花に日向日影かな

河骨やお菓子のやうに黄をひらき

のどけしや我が終章の無言劇

主宰近詠(2023年5月号)

猫の恋路の        本井 英

雪壁 のゆがむと見えて雪崩れけり

身の内にひそむ病魔も春を待つ

養ひてあやふき病寒卵

春を待つ老に真っ赤なスニーカー

老いぬれば河津桜になじめざる

藪巻のがんじがらめは蘇鉄とて

転宅をしてバス停やいぬふぐり

おぎの屋の釜めしの釜いぬふぐり

靴形に沈み込む土犬ふぐり

犬ふぐりに目を置きしまま食つてをり


山茱萸の黄やほころぶとなけれども

山茱萸の枝にちらちら我の影

胸鰭で鯉のおしやべり寒も明け

虎御前の顔白し梅白し

さむざむと照らされてある踏絵かな

大磯を過ぐれば梅の車窓かな

あたたかや祈つてくるる人のゐて

お隣りはながらく空き家猫の恋

チーママの猫の恋路の物語

閑散と雪解雫や湯沢町