主宰近詠(2023年5月号)

猫の恋路の        本井 英

雪壁 のゆがむと見えて雪崩れけり

身の内にひそむ病魔も春を待つ

養ひてあやふき病寒卵

春を待つ老に真っ赤なスニーカー

老いぬれば河津桜になじめざる

藪巻のがんじがらめは蘇鉄とて

転宅をしてバス停やいぬふぐり

おぎの屋の釜めしの釜いぬふぐり

靴形に沈み込む土犬ふぐり

犬ふぐりに目を置きしまま食つてをり


山茱萸の黄やほころぶとなけれども

山茱萸の枝にちらちら我の影

胸鰭で鯉のおしやべり寒も明け

虎御前の顔白し梅白し

さむざむと照らされてある踏絵かな

大磯を過ぐれば梅の車窓かな

あたたかや祈つてくるる人のゐて

お隣りはながらく空き家猫の恋

チーママの猫の恋路の物語

閑散と雪解雫や湯沢町

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