永久気管孔 本井 英 眩しさや虚子忌の朝を目覚めつつ 虚子忌またピカソ忌なりと知らざりき また新たな癌との出会ひ春愁ひ 春愁の流動食よ嚥下食よ 良き患者たらんと暮らし春愁ひ 朝寝の吾を天井から見下ろせる吾 唄ふやうに語る看護婦春ふかし 遠足の今ちりぢりや由比ヶ浜 遠足のどの子も鳩サブレー提げて 遠足の班別行動片思ひ
遠足バス教頭先生人気なく 夏は来ぬのみどを抉り取りし身にも 明易の喀痰生きてある証し 明易の永久気管孔とは笑止 もどり得たりし我が庭や春ふかき 十薬の蕾つぶつぶ吾を迎へ 葉を分けて深窓の青梅となん 河骨の黄花に日向日影かな 河骨やお菓子のやうに黄をひらき のどけしや我が終章の無言劇