主宰近詠(2023年6月号)

永久気管孔   本井 英


眩しさや虚子忌の朝を目覚めつつ

虚子忌またピカソ忌なりと知らざりき

また新たな癌との出会ひ春愁ひ

春愁の流動食よ嚥下食よ

良き患者たらんと暮らし春愁ひ

朝寝の吾を天井から見下ろせる吾

唄ふやうに語る看護婦春ふかし

遠足の今ちりぢりや由比ヶ浜

遠足のどの子も鳩サブレー提げて

遠足の班別行動片思ひ


遠足バス教頭先生人気なく

夏は来ぬのみどを抉り取りし身にも

明易の喀痰生きてある証し

明易の永久気管孔とは笑止

もどり得たりし我が庭や春ふかき

十薬の蕾つぶつぶ吾を迎へ

葉を分けて深窓の青梅となん

河骨の黄花に日向日影かな

河骨やお菓子のやうに黄をひらき

のどけしや我が終章の無言劇

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