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主宰近詠(2021年6月号)

蟇の闇    本井英

雨二夜ありてふたたび蟇の声

和する声あらざるままに蟇の闇

水中へとけてゆく闇蟇の声

蟇鳴くやたゆめる折りのありながら

闇徐々とうすれゆく刻蟇つぶやく



不揃ひの薪をくべ足し春煖炉

待ち合はせすつぽかされて春煖炉

さきがけのその一輪ぞ二輪草

ぽちりぽちりと梅の実にちがひなく

降りけぶり尾上の花の真白にぞ



女子旅の春雨傘のさんざめき

春の雨つつみ鎌倉権五郎

雨脚の見えはじめたる杉菜かな

おのづから組める後ろ手名草の芽

羅生門かづらの仔細朝の日に



人に会へぬ日々を重ぬる落椿

これの木を今年の花見とぞ仰ぐ

花韮も名草まじりに柵のうち

林立といふほどに増え貝母なる

わらわらと咲きつらなるは花通草

主宰近詠(2021年5月号)

青き踏む      本井 英

鵜の黒の春水潜りゆく迅さ

温みきし水を愉しと鯉の鰭

春浅しSECOMと貼りて薬師堂

路地を抜け路地に入れば梅早し

日の底に天道虫の色うるむ



耕してあるよポットも置いてある

干し若布気さくに頒けてくれにけり

初花とも返り花とも雪柳

紅梅や小腰をすこし矯めて咲く



     

小諸城 三句

穴城に降りけぶりたり木の芽雨 春寒の黒門橋や門は失せ 四海浪売店も春寒に閉づ



見ゆるかぎり全開したり犬ふぐり

下萌のはじまつてをり山羊つなぎ

丘は鳴り海は響動もし三千風忌

梅林を歩すほどに膝ほぐれゆく



梅ケ枝の影が眼白の胸元に

白梅に伸べる眼白の頸みどり

梅ケ枝の影を離るる鳥の影

老けてゆく妻このもしや青き踏む

課題句(2021年5月号)

課題句「袋角」     山内繭彦 選 

袋角風にまぶたを閉ぢにけり		前北かおる
しづかなる空に堂塔袋角
袋角心許無くかたまりて		天明さえ
袋角遠き目をして過りたり		磯田和子
袋角たんこぶほどが生え初めぬ		浅野幸枝
江戸三の夕べしづけし袋角		本井 英

屋根雪をスノーダンプで切る落とす   青木百舌鳥

 季題は「雪」。「スノーダンプ」は大きめの雪搔きで、搔き込んだ雪を乗せて移動させることも出来る。作者が見かけた「雪搔き」の現場は「屋根」の上。屋根全体を覆う雪を「スノーダンプ」で「切り分けて」、それを屋根の傾斜に沿って滑らせ、下へ落とす作業をしているのである。我々「雪」に馴れていない者から見るとびっくりする巧みさで「雪」を四角い塊に切り分けてゆく。

 一句の手柄は如何にも手慣れた雪国の人の作業の様子を的確に「写生」したことであろう。われわれが空想する「搔く」「抛る」「運ぶ」といった動詞でなく、「切る」「落とす」というまことに現実に叶った動詞を用いてくれたことで景がありありと目に浮かんだ。しかもその二つの的確な動詞を生の形で「切る」、「落とす」と下五に連打した。その勢いも一句を活動的なものにしている。(本井 英)