主宰近詠(2021年6月号)

蟇の闇    本井英

雨二夜ありてふたたび蟇の声

和する声あらざるままに蟇の闇

水中へとけてゆく闇蟇の声

蟇鳴くやたゆめる折りのありながら

闇徐々とうすれゆく刻蟇つぶやく



不揃ひの薪をくべ足し春煖炉

待ち合はせすつぽかされて春煖炉

さきがけのその一輪ぞ二輪草

ぽちりぽちりと梅の実にちがひなく

降りけぶり尾上の花の真白にぞ



女子旅の春雨傘のさんざめき

春の雨つつみ鎌倉権五郎

雨脚の見えはじめたる杉菜かな

おのづから組める後ろ手名草の芽

羅生門かづらの仔細朝の日に



人に会へぬ日々を重ぬる落椿

これの木を今年の花見とぞ仰ぐ

花韮も名草まじりに柵のうち

林立といふほどに増え貝母なる

わらわらと咲きつらなるは花通草

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