敗荷の鉢の並びぬ坂の道 藤田千秋 雲間より日の差しくれば鶸の鳴き 穴まどひ蛇籠の上に身を曝し 曳船の音遠ざかる秋の暮 葉のあをと檸檬のあをと分かたざる 信野伸子 地震一つありし朝の麦を踏む 山口照男 四万過ぎた頃から林檎赤くなり 稲垣秀俊 夕日さす赫奕(カクヤク)として柘榴かな 武居玲子
雑詠(2022年2月号)
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敗荷の鉢の並びぬ坂の道 藤田千秋 雲間より日の差しくれば鶸の鳴き 穴まどひ蛇籠の上に身を曝し 曳船の音遠ざかる秋の暮 葉のあをと檸檬のあをと分かたざる 信野伸子 地震一つありし朝の麦を踏む 山口照男 四万過ぎた頃から林檎赤くなり 稲垣秀俊 夕日さす赫奕(カクヤク)として柘榴かな 武居玲子
庵主われ 本井 英
黄をおびて明るきときの蘆火かな 沼の小春の日向径日蔭径 ゆかしさや沼離れゆく落葉径 鴨の足へなり〳〵と搔く見ゆる 浮かび出て濡れてをらずよ鳰
冬川へ笯を放りこむ音遅れ 灯を暗く別当寺や神の留守 一村の新海苔景気干しつらね 雪といふ名ぞ消えやすき一茶の忌 小春日をちまちま愉し花やしき
予想屋も聞き入る客もマスクして 菊屋形背中日当たりをりにけり 菊屋形降り出しさうや降りだしぬ 蜘蛛の糸つつつと冬日走る見ゆ 飛べるものどれも小春の日をまとひ
玄室へつながつてゐる落葉径 落葉溜りへ源流の失せにけり 子規の字の読むにたやすし句碑の冬 わが膝をしばし探りて冬の蠅 冬の蠅と親しむことも庵主われ
課題句「寒玉子」 岩本桂子 選 まだ生きんまだ句を詠まん寒卵 前田なな 熨斗箱に病気見舞の寒卵 あるがまま生きて今朝あり寒玉子 金子由美子 琺瑯の白を透かすや寒玉子 田中 香 手触りの木綿に似たり寒玉子 伊藤八千代 寒卵米寿の父は息災に 冨田いづみ
季題は「鈴虫」。「リーン、リーン」と鈴を振るような音色で鳴く虫である。ときどき街で「虫屋」さんが「小さな籠」に入れた「鈴虫」を売っていたりもする。
部屋の真ん中には、何時だったか「お父さん」が街で買ってきた「鈴虫」がしきりに鳴いている。籠の中には、子供たちが一生懸命世話して居る証しのナスやキューリが入っているかも知れない。「お母さん」はお出かけ中。「子供たち」はそれぞれ宿題などをやりながら「お母さん」の帰りを待っている。外がだいぶ暗くなってきて、テーブルの上の籠のなかでは「リーン、リーン」と鈴虫が鳴き始めた。「子供たち」は口には出さないが、「お母さん」が早く帰って来ないかなあと、ドアのチャイムの鳴るのを今か今かと待っている。
なんだか一昔前の童話の世界のような雰囲気が漂う一句である。「鳴きにけり」の下五に、何とも言えない無欲な情感が漂っている。(本井 英)
母を待つ子らに鈴虫鳴きにけり 原田淳子 四肢伸ばす黒猫長し秋暑し 門ひらき奥まで見ゆる萩の家 爽やかや区の旗なびく美術館 おのがじし活計のありて浦の秋 小沢藪柑子 栞りたる頁にもどる夜の秋 岩本桂子 台風の名残の風に物を干す 黒田冥柯 蜩のエリザベスサンダースホーム 梅岡礼子