母を待つ子らに鈴虫鳴きにけり   原田淳子

 季題は「鈴虫」。「リーン、リーン」と鈴を振るような音色で鳴く虫である。ときどき街で「虫屋」さんが「小さな籠」に入れた「鈴虫」を売っていたりもする。 

 部屋の真ん中には、何時だったか「お父さん」が街で買ってきた「鈴虫」がしきりに鳴いている。籠の中には、子供たちが一生懸命世話して居る証しのナスやキューリが入っているかも知れない。「お母さん」はお出かけ中。「子供たち」はそれぞれ宿題などをやりながら「お母さん」の帰りを待っている。外がだいぶ暗くなってきて、テーブルの上の籠のなかでは「リーン、リーン」と鈴虫が鳴き始めた。「子供たち」は口には出さないが、「お母さん」が早く帰って来ないかなあと、ドアのチャイムの鳴るのを今か今かと待っている。

 なんだか一昔前の童話の世界のような雰囲気が漂う一句である。「鳴きにけり」の下五に、何とも言えない無欲な情感が漂っている。(本井 英)

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