草競馬 本井 英
小鳥らの流るるやうに枝伝ふ こちの葉は水仙そちは曼珠沙華 とんばうの浮かぶ暇も草競馬 草競馬囲む野山の錦かな 煙草の火猪のぬた場に踏み消せる
猪の犬に咬 まれるたびの声 厚物の疲れて垂るる二三弁 管物の管輪台に触るるなく 皇帝ダリアまだ尋常の丈にして 花八手蠅とも違ふ黒い奴
生くるとはつねに赤裸々一茶の忌 老いてさらに骨肉にこと一茶の忌 舟待ちて床几にあれば時雨れけり 牡蠣筏より飛び乗つて来し男 葉が落ちて丘のなぞへのあからさま
枯れ欅の空へ放てる千手かな 城垣の上に着ぶくれ立ち替はり さらに雨つのればぞくぞくつと寒し 尺ほどな鉢より生ひて枇杷咲けり 綿虫に小さき背があり風が押し
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主宰近詠(2016年1月)
顎をしやくつて 本井 英
湯煙をひつちぎりては野分めく 秋風に湯けむり茶屋は蒸籠干し ゐし鵙の軋りつつ飛び去れるかな 斑猫は水を舐めたり耳掻いたり 数珠玉や筑紫次郎もかく細り九州小国 五句
久女棲みし板櫃河畔鯊の夕 磯原の鴫ごと暮れて沖明かり 峠越ゆればまた別の稻筵 栗剥くに包丁の顎使ひやう 秋冷や 鋲 多に柳橋小倉
香取神宮黒々と社殿ひややか戦神 閘門が上がり見え来る水の秋 勁きもの女心や西鶴忌 蟷螂の踏まれず枯れず路の上 栗石の白のことさら紅葉川
仙台・松島 三句城裾を褶曲したり河の秋 川風に皀莢子の実の震ふ鳴る 黒々と育つ新海苔浪のむた 鵯いまは心安らかキヨロと啼き 赤とんぼ顎をしやくつて吾を見たり
主宰近詠(2015年12月)
国 原 本井 英
野尻湖へはこれが近道蕎麦の花 満州より生きて戻りて蕎麦の花 ドトールの小椅子に置いて露の身を 露の世やすれ違うてももう判らぬ バス通りを我が家に折れて露けしや
健啖といふ物差しや獺祭忌 無きにしもあらぬ艶聞獺祭忌 その先のその先の芒に招がれ 曼珠沙華の赤き睫毛の尖の金 国原や幾万の蛇穴に入り
来週は鳴くかどうだか秋の蟬 川澄めば澄むほどに囁きにけり 山畑に背中がひとつ昼の虫 大蜘蛛のうおんうおんと囲をあふり 合歓の実の吹かれぺらぺらぺらぺらす
紫菀叢長けて高々月今宵 鯊はたと停まれば形まぎれけり 秋蝶を崖下へ吹き落とす風 人歩けるだけのトンネル秋潮へ 川澄みて小鷺の足の黄の透けて
主宰近詠(2015年11月号)
島のぐるり
跪き囮鮎をぞねもごろに 囮鮎瀬のなかほどへ差し向けて 泉辺に子供のやうなワンピース 指のべて泉の面を崩したり どす黒く浅間の火あり黴の絵馬小諸日盛俳句祭 五句
簞笥売場の冷房がよく効いて 見渡して老爺ばかりぞ秋御輿 玉ひでに行列しづか秋日傘 島のぐるりや秋潮に入れ替はり 見づまりをはじめてをりぬ鰯雲
一茎に欠き痕いくつ花オクラ 青蛙のひたとたたみしふくらはぎ 響動して八割ほどが法師蟬 花の黄の人なつつこき落花生 熊蟬の声しやつしやつと削り出す
千巌を糾ひて瀧すべるかな 白玉を沈めて鉢の水くもり 生垣をちらちら雨宿りの小鳥 芭蕉葉や雨にまんべんなく濡るる 水澄みて踝ほどを流れけり大岩山日石寺
主宰近詠(2015年10月号)
止め掻き 本井英
向日葵の天辺がまだ覗きこめ さくと引く漆鉋の音かわく 漆掻真一文字に口結び 古溝の黒々とあり漆掻 漆伐り倒し止め掻き仕る
滴りのたまらず紐となるあたり 滴りや陳 者 山の心斯く 蜜豆の求肥や色もやはらかく 蜜豆や女の絆侮れず 赤富士へ別荘村を出はづれし
赤富士や釣人すでに湖の上 箱庭に牛小屋があり牛がをり 箱庭の船頭口を開けたまま 箱庭の小瀧に耳をすませたり 氷川丸の煙突低し丘茂り
昂らぬ音こそ佳けれ造瀧 大人しくしてゐる松を手入れせる 暑に耐ふや所作緩慢を心がけ 冷房のバスの窓より町を人を 蜩の鳴き加はれば沼を辞す