主宰近詠(2015年12月)


国 原  本井 英

野尻湖へはこれが近道蕎麦の花

満州より生きて戻りて蕎麦の花

ドトールの小椅子に置いて露の身を

露の世やすれ違うてももう判らぬ

バス通りを我が家に折れて露けしや



健啖といふ物差しや獺祭忌

無きにしもあらぬ艶聞獺祭忌

その先のその先の芒に招がれ

曼珠沙華の赤き睫毛の尖の金

国原や幾万の蛇穴に入り



来週は鳴くかどうだか秋の蟬

川澄めば澄むほどに囁きにけり

山畑に背中がひとつ昼の虫

大蜘蛛のうおんうおんと囲をあふり

合歓の実の吹かれぺらぺらぺらぺらす



紫菀叢長けて高々月今宵

鯊はたと停まれば形まぎれけり

秋蝶を崖下へ吹き落とす風

人歩けるだけのトンネル秋潮へ

川澄みて小鷺の足の黄の透けて