国 原 本井 英
野尻湖へはこれが近道蕎麦の花 満州より生きて戻りて蕎麦の花 ドトールの小椅子に置いて露の身を 露の世やすれ違うてももう判らぬ バス通りを我が家に折れて露けしや
健啖といふ物差しや獺祭忌 無きにしもあらぬ艶聞獺祭忌 その先のその先の芒に招がれ 曼珠沙華の赤き睫毛の尖の金 国原や幾万の蛇穴に入り
来週は鳴くかどうだか秋の蟬 川澄めば澄むほどに囁きにけり 山畑に背中がひとつ昼の虫 大蜘蛛のうおんうおんと囲をあふり 合歓の実の吹かれぺらぺらぺらぺらす
紫菀叢長けて高々月今宵 鯊はたと停まれば形まぎれけり 秋蝶を崖下へ吹き落とす風 人歩けるだけのトンネル秋潮へ 川澄みて小鷺の足の黄の透けて