どんみりと 本井 英
どの河も北へ流るる時雨かな 雨が撃ち風が揺り上げ鴨の水 観瀑や膝に秋日をあたたかく 瀧水や剥がれ墜ちまた剥がれ墜ち 仰ぐこと止め瀧音につつまるる
里坊に養ふ恙紅葉鮒 ごろごろと青き檸檬も島みやげ 大綿や山の裏へと日は疾うに 綿虫にどんみりとある運河かな 片舷のはげしく破るる芭蕉かな
莞爾たる我あり啄木鳥が指呼に 木の葉髪洗面台の明るさに 小春日に乗じ山路にかからばや 堰堤の隅をこぼれて冬の川 合流のどちらも痩せて冬の川
海底のぐにやりと歪み寒の潮 風を呼ぶとき荻の穂は指ひらく いづち行かんか酉の市抜けてさて 見えてきて十月桜けぶり咲く 水鳥が水陽炎を崩したる
主宰近詠(2014年2月号)
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