降りて来し山を見上ぐる足湯かな 浦木やすし(2012年11月号)

季題は「登山」で夏。「登山」の傍題には「山登」、「登山宿」、「登山小屋」、「登山杖」、「登山笠」、「登山口」などが登録されている。当該句にはこれらの傍題すら見当たらないが、内容を読んでいくと「登山」をした人物が下山をして「山」を見上げていることが判る。本来「季題」の「言葉そのもの」が一句に詠み込まれるのが、私達の俳句の原則であるが、この句のように内容から「それ」と判る場合も例外的に花鳥諷詠に含まれて良いと思う。青年虚子に「風が吹く仏来給ふけはひあり」の句があり、晩年の虚子は岩波文庫『虚子句集』で、その句を「迎火」の項目下に収めた。

「足湯」がいつの頃からこれほど流行ったのか定かではないが、近年は温泉場の全てに「足湯」があると言っても過言ではない。そんな温泉場に下山してきた登山者が山靴を脱いで、登ってきた山を満足げに「見上げて」いるのである。近年増加の熟年登山者の姿が思い浮かべられた。 (本井英)

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