カナダの俳句~伊丹公子『ARGILLITE』より(杉原)

伊丹公子『ARGILLITE(アーギライト)』(春陽堂 1994年12月)

伊丹公子『アーギライト』

この『ARGILLITE』は伊丹公子さんの第9句集。
1990年から1993年までの毎夏、バンクーバーに在住していた三女・Lee 凪子さんの元を訪ねた際に詠まれた100句を集録。
伊丹公子氏は1925年高知市生れ。
旦那は、前衛俳句の長老・伊丹三樹彦氏。日野草城に師事。
草城が創刊した「青玄」に所属。昭和47年に第19回現代俳句協会賞を受賞されている。
分かち書き、無季句、破調と我々の詠み方と大分異なるが、それはそれで勉強になる。
100句全てに三女・凪子さんの英訳がついており(直訳)、その比較も興味深いところがある。何句かご紹介しよう。なお、句集名の
「ARGILLITE」はカナダのブリティッシュ・コロンビア州(BCと呼ばれる)で採れる鉱物の名前。
先住民族が黒く磨かれそこに彫刻を掘っている。黒と言うのは高貴な意味を持つとのこと。
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「バンクーバー」
思想もつかに
キャピラノ川を のぼる鮭 公子
As if possessing
a mind of its own
A salmon runs up
the Capilano River
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「キャプラノ川」はバンクーバーの北側に流れる川で、鮭の遡上が有名な川。
必死な顔をして遡上する鮭に対して「思想をもっているか」と問いかけているということだろうか。
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産卵の紅(くれない)に栄え 鮭の死くる 公子
Turning red,
the color of glory
Death awaits a salmon
Laying her eggs
この句は比較的分りやすいです。産卵後の鮭の様子が浮びます。
下五が字余りですがリズムも悪くありません。字余りいに身があります。
アーギライトは
   森の昏れいろ 鮭くる街 公子
Argillite
a dusk-colored forest
The salmon arrives in town
「ビクトリア」
塔室からみる 暑休ヨットの過ぎる刻 公子
Wathing from a castle tower
A yacht passes by
Summertime
季題はヨット。ビクトリアはバンクーバー郊外にある都市、BC州の州都もある。イギリス風の邸宅が残っている町並が有名。
「塔室」からヨットが見えるということで、ある程度景色を特定できるようになっています。
「カナディアンロッキーの町」
ダイビング少年
   矢となる 夏ふかい町 公子
A diving boy
becomes an arrow
A town at the height of summer
三段切れですが、三段切れなりの良さがあるか。清冽な川に少年が吸い込まれていくイメージが浮んでくる。
以上(杉原記)

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