「落選展2011」を読むその2 澤田和弥/上田信治/佐藤文香
昨日に続いて3人をご紹介いたします。
4.澤田和弥「還る」
4人目は澤田和弥さん。
http://weekly-haiku.blogspot.com/2011/10/2010_3497.html
澤田さんは昭和55年生まれで早稲田俳句会で活躍されていました。浜松出身で現在は浜松の地で働いていらっしゃいます。
慶大俳句時代に色色遊んで頂きました。「天為」同人でいらっしゃいます。
寺山修二の忌日俳句が三句並んでいるように、現在の社会の矛盾を俳句という詩形を用いて描こうとされていると思います。抉り出す様に人、それも男の暮らしを俳句にされようとしています。
・風船の割れしが雨の道の上
・鞦韆や定年退職後の肉体
・花冷や血のみ残るる刺身皿
・三階は男の住み処花まつり
・のどけさのなんとさびしき空の上
・鳥葬の鳴き声高き修司の忌
・深々と田植の後の夜空かな
表題句の「水に還る数多の命蘆の角」はどうでしょうか、理屈に落ちてしまっていると思います。
ただこの詠み方を変に抑制してしまうと、澤田さんの個性が生きなくなる面もありますので、難しいところです。
5.上田信治「ゐのしし園」
5人目は上田信治さん「ゐのしし園」。
http://weekly-haiku.blogspot.com/2011/10/2010_966.html
週刊俳句の編集をされており、「里」でも活躍されています。鋭い評論には蒙を啓かれます。
深夜句会の渋谷での吟行会に一度参加いただいたことがあります。視野の広い方なので俳句会を共にさせて頂くと、大変勉強になります。
抽象的な世界を具体的なものを通して描き出すことに巧みな句群です。ゆったりとしたリズムで読ませる句が多く、しっとりとした世界を味わえます。
・みづうみに靴を失なふ秋の雲
・手の中のラジオが歌ふ冬の雲
・木の根つこ映して映画日の盛り
・ゆつくりと跨ぎし霜の鎖かな
・春待つや給水塔は木々のなか
・竹の皮落ちるしづかな竹のなか
・サンダルを濡らし実梅を拾ひけり
・明易し浄水場にして公園
一方、「凩の吹いてあかるい壁に服」「ゆふがたの干潟に皆のゐるやうな」などは力のあることが分りますが、思わせぶりすぎだと思います。
6.佐藤文香「詩の遊び」
6人目は佐藤文香さん「詩の遊び」。
http://weekly-haiku.blogspot.com/2011/10/2010_7090.html
こちらも上田さんと同じく「里」に所属。そういえば、今年の夏本井英主宰は京都で開かれた「里」の記念大会に出席されていました。
ここでの2ショットは衝撃でした。手元で探してみましたが見つからなかったのでお持ちの方いらっしゃったら教えてください。
所謂「俳句甲子園世代」代表作家の一人です。非常にタレントの豊富な形で第一句集『海藻標本』も大変な評判でした。
現在ふらんす堂で「俳句日記」の連載を担当されています。
http://furansudo.com/1day/sato/index.html
今回の句群もしっかりとした句がが並んでいるとの印象です。
佐藤氏も句を引き伸ばすことにより、句の世界の奥行きを広めようと試みているようです。
また韻に気の使い方は大変勉強になります。
・火の奥のうすむらさきと蝶の白
・蜜柑畑天つ夕日に荒れてあり
・まなじりを草に斬らるゝ午睡かな
・天幕生活野に腕長く差し出だす
・遠花火詩の遊びしてきずつきあふ
・愛されぬ人うたひつゝ梨をむく
・朝のアは愛のア逢ひにゆけば花
50句通して一定のリズムの句が続いてしまっている印象を持ちました。