月別アーカイブ: 2023年5月

課題句(2023年5月号)

「武者人形」 渡邉美保 選
紋所は軍配団扇武具飾る		児玉和子
武具飾る高祖父よりの伝来と

殿様の大床なりし武具飾る		岩本桂子
面 頰(メンポホ)は今度も出さず武具飾る		青木百舌鳥
踏ん張れる足むつちりと武者人形	前田なな
武者人形女系一家に男の子		本井 英

ばば様のお部屋の前の実南天 宮田公子

 季題は「南天の実」。「南天は十月頃から丸い深紅な実を房々と垂れて花の乏しくなりかけた庭を飾る」と歳時記にはある。西洋のそれらとは異なるものの、ある「華やかさ」に包まれたものと言えよう。「ばば様」はその家の「刀自」、先代の主婦であり、当代の母上といったところであろう。わが日本は、もう何十年も「核家族」化が進行して、かつてのように一つの家に何世代もの人間が暮らすことが無くなってしまった。「良い悪い」ではなく、そのような選択をした結果であるから仕方がないのだが、その影響で「さまざまな暮らしの場面」は激変した。この句の「ばば様のお部屋」など、あまり見かけないものの一つだ。所謂「隠居所」・「隠居部屋」。狭いながらも小庭に面した「隠居部屋」では「ばば様」が静かに、縫い物をしたり、新聞を読んだり。必要な折には広間にも出張って来るが、普段はいるのか、いないのか。子供達も「ばば様」の「お部屋」の前は静かに通り過ぎるのが、「お行儀」だった。(本井 英)
					

雑詠(2023年5月号)

ばば様のお部屋の前の実南天	宮田公子
棲み古りてここがふるさと年明くる
ひと畑を縁取るやうに仏の座
松過のあたたかければ海を見に

蕗の薹天地しづかに動き初む		伊藤八千代
初鶏や田はしろがねに明けゆける	三上朋子
二日はや鵜と遊びゐる鵜匠かな		近藤作子
ゆつくりと触れて行くなり寒の鯉	藤田千秋

主宰近詠(2023年5月号)

猫の恋路の        本井 英

雪壁 のゆがむと見えて雪崩れけり

身の内にひそむ病魔も春を待つ

養ひてあやふき病寒卵

春を待つ老に真っ赤なスニーカー

老いぬれば河津桜になじめざる

藪巻のがんじがらめは蘇鉄とて

転宅をしてバス停やいぬふぐり

おぎの屋の釜めしの釜いぬふぐり

靴形に沈み込む土犬ふぐり

犬ふぐりに目を置きしまま食つてをり


山茱萸の黄やほころぶとなけれども

山茱萸の枝にちらちら我の影

胸鰭で鯉のおしやべり寒も明け

虎御前の顔白し梅白し

さむざむと照らされてある踏絵かな

大磯を過ぐれば梅の車窓かな

あたたかや祈つてくるる人のゐて

お隣りはながらく空き家猫の恋

チーママの猫の恋路の物語

閑散と雪解雫や湯沢町