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時雨るゝや虚子の堅田を訪ぬれば 藤永貴之(2012年12月号)

季題は「時雨」。冬の来た「時」を知らせるところから、「時雨」と書く。堅田は琵琶湖西岸、古来要衝の地。湖中に建つ浮御堂なども有名だが、虚子の門弟、清酒「浪の花」の中井余花朗の町でもある。ことに虚子晩年の写生文「絵巻物」中、「堅田夜話」の舞台としても懐かしい。

作者は冬の近江を訪ねたのであろう。三井寺や大津の市内を巡っていた時分には、なんとかもっていた天気が、堅田に至る頃から、はらはらと零れるようになって来た。普通の土地であるなら、ただ残念な気持ちになるのであろうが、堅田に至って時雨に遭ったことが、なにか特別なことであるように喜びながら、虚子を偲んだというのである。

ゆったりとした調べの中に、無理の無い柔らかな情感が湛えられており、品格も高い。(本井英)

雑詠(2012年12月号)

時雨るゝや虚子の堅田を訪ぬれば	藤永貴之
冬耕や樹々に夕日が切れ切れに
狐火の糸の切れたるごとく散る
一つ売れ一つ足されて飾かな

次々と浴衣の少女降りる駅		牧野伴枝
良い夢を見んとて布団干しにけり	山口照男
芭蕉葉の破れ芭蕉葉の影の破れ	原 昇平
撒水器カタカタカタカタ向きを替へ	田中温子