日別アーカイブ: 2012年1月22日

「夏潮 第零句集シリーズ Vol.5」 櫻井茂之『風ノ燕』

「夏潮 第零句集シリーズ Vol.5」 櫻井茂之『風ノ燕』

 

 「夏潮第零句集シリーズ」。第5号は櫻井茂之さん。

茂之さんは、昭和四十一年福岡市生。地元の有名デパートに一度就職後、高校に職員として再就職。その高校で藤永貴之さんと出会い、職場句会を通じて俳句を本格的に始められたのは平成十七年。その後「夏潮」創刊に参加。昨年より編集委員として運営に参加いただいている。また、今年度の第三回黒潮賞を「五百羽余」で受賞。

黒潮賞の受賞作品からも分るとおり、本井英、藤永貴之から伝わるじっと季題を見つめ、描写する姿勢が身についている。更にそこに独自の感性から紡ぎ出した言葉を独りよがりにならないよう丁寧に読みこんで一句をなしている。結果として我々は茂之さんの俳句からは全面的な肯定性、向日性を感じることが出来る。

実に手の込んだ句の詠み振りである。物事の新奇性に頼らず、このような姿勢で俳句を詠んでいくことが我々にとって非常に大事なのであろう。

 

 末尾は切れ字、体言止めが殆んどを占めており、その点が百句を一定の平板なリズムで並んでいる印象を持った。これは、これで6年間で100句という、俳歴と句数のバランスから止むを得ないであろう。

 

やはらかき葉をかきわけて袋掛 茂之

 季題は「袋掛」。果実を外のものに食べられないよう守るため、一つ一つに袋を掛けていく。その様子を上五中七の様に詠った。何の果物であろうか、何れにせよ初夏の柔らかい日差しの下で光るように行われる袋掛けの光景が鮮やかに目に浮ぶ。

 

鮟鱇のどろりと箱に入れらるゝ 茂之

 季題は「鮟鱇」。鮟鱇という大きくてぬめぬめした魚の港での扱われ方を詠んだ一句。

 中七の「どろり」が眼目。対象をじっと見つめ浮んできた措辞であろう。誰もが納得できる一句ではないか。

 

『風ノ燕』抄 (杉原祐之選)

握り飯食うて涼しき風の中

秋霖に黒く濡れたる檜皮かな

温む水国土交通省管理

信号の三つの庇雪積める

夏潮に囲まれて国境の島

一塊を経木に包み鯨売る

競漕の舟の濡れたるまゝ積まれ

秋の蚊やだらりと長き脚下げて

河口暮れて白魚茶屋の灯せる

鷹柱ほどけて空の残りけり

 

(杉原祐之 記)




関係ブログ

俳諧師前北かおる http://maekitakaoru.blog100.fc2.com/blog-entry-787.html

 



櫻井茂之さんにインタビューしました。

櫻井茂之さん

Q:渾身の一句は?

A: 「機影はるけし八月の雲の中へ」私にしては格好良すぎる句ですがうっかりと生まれてしまった我が子です。


Q:100句まとめた後、次のステージへ向けての意気込みは?

A: 100句目の「鷹柱ほどけて空の残りけり」は黒潮賞を頂いた20句へとリンクしています。
鷹の渡りを詠んだ時のようにこれからも足下の花や見上げる空を実直に詠んで行こうと思います。


Q:100句まとめた感想を一句で。

A:「初空やこんもりとある水城あと」茂之

課題句(2012年1月号)

「雪」 小沢薮柑子選

終点のバス停留所雪の塊		山内裕子
雪塊をつつきみし靴汚れけり

雪しづる音に目覚めて独りなる 児玉和子 風杯に雪片はじけ止まざりし 本井英 児を負ひて雪ふる夜道急ぎけり 矢沢六平 ポイントに火の点々と雪の駅 天明さえ

ちぬ釣つて而して椀の鯛の鯛 青木百舌鳥(2012年1月号)

季題は「ちぬ」。「黒鯛」の傍題である。釣りマニアには一年を通じての狙い魚であるが、一般的には夏の、なかでも夜釣りが納涼をかねて楽しまれている。悪食で有名で、海老・蟹類から、ゴカイ、イソメ。さらには蚕の蛹、地方によっては西瓜などを餌にして釣ることもある。

掲出句は「ちぬ釣つて」というのであるから、作者自身で釣りをして。「而して」というのであるから、自身で料理をした、というところが解釈の勘所となろう。「鯛の鯛」はご存知の方も多いだろうが、魚の頭の中にある「骨」、厳密には肩胛骨の辺りの骨で、胸鰭を動かすときに使う。その形状が「魚」の形をしているので、「鯛の中の鯛」という意味から「鯛の鯛」として面白がられている。さらに「鯛の鯛」が食べ手にそれと判るには、「吸い物」が相応しく、その点「椀の」の措辞は周到である。

昼間は釣り三昧に耽り、夜には自ら包丁で刺身、焼き物、椀種と「ちぬ」を捌いた作者の得意顔まで眼に浮かぶ。

雑詠(2012年1月号)

ちぬ釣つて而して椀の鯛の鯛	青木百舌鳥
大厄日に耐へたる椎を仰ぎけり
やはり風に倒れをりたり吾亦紅
かまきりに牙と舌あり鎌舐むる

虚子は花杞陽は月よ月恋し 岩本桂子 梨狩りのバス農道をぎりぎりに 酒泉ひろし あざやかに流れきつたる星ひとつ 山内裕子 都府楼址とふ立体に風花す 藤永貴之