投稿者「祐之」のアーカイブ

祐之 について

「夏潮」運営委員の杉原です。 平成二十二年四月に第一句集『先つぽへ』を出版

【連絡】6月の句会案内の訂正

HP掲載の6月の句会案内に一部誤りがありました。

(雑誌の方は正しい情報が掲載されております)

https://natsushio.com/?p=6310

土曜吟行会 6月9日 〆切り時間 ×15:30→○15:00

タイドプール 開催日 ×6月20日(水)→21日(木)

 

大変ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。

 

                   〆

 

 

神野紗希『光まみれの蜂』(角川書店 2012年4月)

神野紗希『光まみれの蜂』(角川書店 2012年4月)

神野紗希句集『光まみれの蜂』

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『光まみれの蜂』は神野紗希さんの第1句集。平成14年に「初期句集」として『星の地図』(まる工房)を出版されているが、集録句を含めて改めて本句集を第一句集として出版されたとのこと。平成11年から23年までの13年間から256句を集録。
神野紗希さんは、昭和58年生まれ、俳句甲子園をきっかけで俳句をはじめ、「NHK俳句王国」の番組司会などで活躍。昨年5月には当ページでもたびたび紹介している「spica」というwebサイトを江渡華子、野口る理と共に立上、作句のみならず、評論の形で活躍している。現在は御茶ノ水女子大大学院で俳文学の研究をなさっている。小諸の「日盛俳句祭」にも参加いただき、昨年は「夜盛会」にもご参加いただいた。
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 「新撰21」の100句と句の雰囲気は大きくは変わっていない。のびのびとして作風で、読んでいて心地よい風が吹いてくるような句が多い。「甘い」と思える句もあれば「上手い」と思える句もある。省略を効かせ詩情に溢れている句が並んでいる。口語を多用しながらも「切れ」が意識されており、その点は深く感心した。
 モチーフとしては「光」と「風」に溢れており、何とも清冽な印象の句集である。月並みな感想になるが「若いって良いな」と改めて感じさせられる一集である。
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 カーラジオ立夏を告げて途切れけり 紗希
→季題は「立夏」。車に乗ってラジオをつけていたらラジオから「今日が立夏」です。と喋りトンネルに入ったのか、ラジオに雑音が交じり聞こえなくなった。
「立夏」五月五日、六日頃の気候は非常に素晴しい。その日を改めて夏の初めと感じ、ラジオの雑音にこれから来る夏のプランを重ね合わせていているのだろう。言葉を飾らずに己が感じたことを素直に表現することで、定型と季題の力で素晴しい詩になった。
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 桃の花老人はみな眩しそう 紗希
→季題は「桃の花」。桃の実が若さの象徴であることは良く知られる。その、桃の花が持つ若さを眩しく老人が見上げていた。そのご老人はかつては大変御美しかったのであろう。桃の花が咲く頃の「風光る」様子が全てを肯定的に捉えている。口語でありながら、上五の体言止めの切れの余韻を上手く活かしている一句。
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 評論の世界でも大活躍されている彼女であるが、その活躍が鋭い分、後半の俳句は季題そのものを描くと言うより、「時評」を描いている感が強くなってきた。それはそれで一つの表現のあり様だと思うが、初期の頃の瑞々しい表現とかなり異なってきているように感じた。
 当面、若手俳人の代表として各所に作品を発表する彼女の俳句の変化についてこれからも楽しみにしていきたい。勿論、それに刺激を受け我々が「深は新なり」を究めていくことが必要である。
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その他の印をつけた句を紹介したい。
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起立礼着席青葉風過ぎた
白鳥の頸のカアブを真似てみよ
オリオン座木の実使つて説明す
ライオンの子にはじめての雪降れり
草笛の最後は川へ流しけり
天道虫死んでははみ出たままの翅
ここもまた誰かの故郷氷水
傾いて懸かる巣箱やクリスマス
枯園や水色多き案内図
ガーベラのラの埋もれたる苗札ぞ
カレーパン齧るや屑がマフラーに
コンビニのおでんが好きで星きれい
キリンの舌錻力(ブリキ)色なる残暑かな
初日の出板一枚が海に浮く
みんなよくはたらく桜どんどん散る
四部屋のコーポ翠に目白来る
カニ缶で蕪炊いて帰りを待つよ
何を見ていた黒髪に雪を降らせて
以上(杉原記)
http://cart06.lolipop.jp/LA10841920/?mode=ITEM2&p_id=PR00102201067

山中多美子『かもめ』(本阿弥書店 2012年4月)

山中多美子『かもめ』(本阿弥書店 2012年4月)

山中多美子『かもめ』

『かもめ』は山中多美子さんの第2句集。平成11年から23年までの13年間から319句を集録。山中多美子さんは昭和24年愛知県生まれ、昭和60年に宇佐美魚目氏に師事する形で句作をスタート。現在は「晨」「琉」「円座」同人。「熱田の森文化センター」俳句講師を勤められている。
「夏潮」名古屋句会にも時折参加いただき、私も一度句会を共にさせて頂いたことがある。大変穏やかでありながら、言葉に対して鋭敏な感覚をお持ちであると感じた。
 文学に対する造詣がおありなのであろうか、万葉へ思いを馳せた句の多くに心の弾みを感じることが出来た。
 漁りや伊勢に大きな雪がふり 多美子
→季題は「雪」。「伊勢」の隣国「志摩」は良く知られているように、鮑など魚介物を穀物の替りに宮中へ年貢として納めていた「御食国(みけつのくに)」。伊勢も当然主要な魚介の提供地であっただろう。また、伊勢には伊勢神宮があり日本国の豊穣の神様を奉っている。
そのような伊勢の地に雪が降っている。大伴家持の歌ではないが、この雪が一年の豊穣をもたらす吉兆であるまいかという句。ゆったりとした上五の打ち出し方で句全体の雰囲気を形成することに成功している。
 初鏡かもめのこゑがふえきたる 多美子
→季題は「初鏡」。新年初めて除く鏡、特に女性にとっては意識するものであろう。それを覗いた際に外でかもめの声が増してきた。如何にも新年を迎える喜びが伝わってくると共に、この一年に掛ける作者の気持ちが伝わってくる。「かもめ」も随分数多く詠まれている題材で、それぞれ山中さんの心の弾み具合に和していると感じた。
 本句集を通じて同じ季題、テーマで詠まれた作品が多く、詠んでいて単調に感じられる点があったのは、若干損をしていると感じた。もう少しご自身の写生の目を信じて句作の幅を広げられるとさらに作品が楽しみになると思った。
その他の印をつけた句を紹介したい。
ひらきたる和訓栞冬の畦
如月のかもめのこゑを炭問屋
あをあをと夜空流れて葛の花
裕次郎の映画見にゆく土用浪
西行谷花びらほどの雪がふり
日出づる国なり種を下しけり
筍を下げて寺町めぐりけり
早蕨に小さな瀧のかかりをり
鉞の案外かろし雲の峰
走り根に道もり上り西行忌
島の子の素潜り上手夕焼けて
浦々や八朔祭の藁を干し
秋風や船荷の瓦下しゐる
上ミに家かたまつてをり葛の花
三寒の葉もの根ものを洗ひをり
水門に棹をねかせて蜆舟
終戦日透きとほりたる烏賊の骨
以上(杉原記)

カナダの俳句~伊丹公子『ARGILLITE』より(杉原)

伊丹公子『ARGILLITE(アーギライト)』(春陽堂 1994年12月)

伊丹公子『アーギライト』

この『ARGILLITE』は伊丹公子さんの第9句集。
1990年から1993年までの毎夏、バンクーバーに在住していた三女・Lee 凪子さんの元を訪ねた際に詠まれた100句を集録。
伊丹公子氏は1925年高知市生れ。
旦那は、前衛俳句の長老・伊丹三樹彦氏。日野草城に師事。
草城が創刊した「青玄」に所属。昭和47年に第19回現代俳句協会賞を受賞されている。
分かち書き、無季句、破調と我々の詠み方と大分異なるが、それはそれで勉強になる。
100句全てに三女・凪子さんの英訳がついており(直訳)、その比較も興味深いところがある。何句かご紹介しよう。なお、句集名の
「ARGILLITE」はカナダのブリティッシュ・コロンビア州(BCと呼ばれる)で採れる鉱物の名前。
先住民族が黒く磨かれそこに彫刻を掘っている。黒と言うのは高貴な意味を持つとのこと。
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「バンクーバー」
思想もつかに
キャピラノ川を のぼる鮭 公子
As if possessing
a mind of its own
A salmon runs up
the Capilano River
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「キャプラノ川」はバンクーバーの北側に流れる川で、鮭の遡上が有名な川。
必死な顔をして遡上する鮭に対して「思想をもっているか」と問いかけているということだろうか。
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産卵の紅(くれない)に栄え 鮭の死くる 公子
Turning red,
the color of glory
Death awaits a salmon
Laying her eggs
この句は比較的分りやすいです。産卵後の鮭の様子が浮びます。
下五が字余りですがリズムも悪くありません。字余りいに身があります。
アーギライトは
   森の昏れいろ 鮭くる街 公子
Argillite
a dusk-colored forest
The salmon arrives in town
「ビクトリア」
塔室からみる 暑休ヨットの過ぎる刻 公子
Wathing from a castle tower
A yacht passes by
Summertime
季題はヨット。ビクトリアはバンクーバー郊外にある都市、BC州の州都もある。イギリス風の邸宅が残っている町並が有名。
「塔室」からヨットが見えるということで、ある程度景色を特定できるようになっています。
「カナディアンロッキーの町」
ダイビング少年
   矢となる 夏ふかい町 公子
A diving boy
becomes an arrow
A town at the height of summer
三段切れですが、三段切れなりの良さがあるか。清冽な川に少年が吸い込まれていくイメージが浮んでくる。
以上(杉原記)

佐藤郁良『星の呼吸』(角川書店 2012年4月)_杉原

佐藤郁良『星の呼吸』(角川書店)

佐藤郁良『星の呼吸』

佐藤郁良さんは、1968年東京都生れ。
開成高校の国語教師として、「俳句甲子園」への引率をきっかけで俳句を始め、2007年の第一句集『海図』で第39回俳人協会新人賞を受賞。
現在は「銀化」副編集長を務められている。
「俳句甲子園」で開成高校を優勝6回に導いており、開成高校出身の若い俳人達にとって一番最初の師匠と言う立場であろうか。
 この方の句集も先日ご紹介した同じ「銀化」の小池さんと同じく、大変巧み且つ知的な構成で狙いのはっきりした俳句が並んでいるが、佐藤氏の方が下五を「かな」「けり」が多用されていることもあり、比較的平明であると感じることが出来た。
我々の句の詠み方と似ていると感じるところもあるのではないか。
季題の持つ本意を活かそうという傾向を読み取ることが出来る。
鮟鱇の部品となりて送らるる 郁良
→季題は「鮟鱇」。大きな鮟鱇が水揚げされた。それが捌かれ最終的に各部位となって加工場に送られていった。
それを中七で「部品」と突き放すように詠んだことで逆に「哀れ」を表すことに成功した。
赤い羽根つけシースルーエレベーター 郁良
→季題は「赤い羽根」。取り合わせの俳句。
「シースルーエレベーター」という何とも不思議な感覚と、「赤い羽根」を胸に付けているときの若干の違和感の比較が面白い。
その他の印をつけた句を紹介したい。
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砂嘴ひとつ海より生るる初景色
いにしへの雨を見てゐる雛かな
十人でいつぱいになる木下闇
春耕や言葉を探しつつ退る
檻の鷲しづかに我を捕へけり
代田いま星の呼吸をしてをりぬ
花野まで来てばらばらに坐りをり
敷きつめし素焼の欠片小鳥来る
測量船とほき海市へ向かひけり
輪飾の凍てて小さき駅舎かな
書初や未来へ太き右はらひ
花は葉に簡易トイレの残りけり
祭髪父を離れて坐りけり
雑巾のかたく乾いて山眠る
麦秋や赤子は体ぢゆうで泣く
対岸を見てゐる泥鰌鍋
命継ぐやうに手花火寄せ合へり
りんだうや宗谷の沖の紺深し
初夢は遠ざかりゆく船のごと
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以上(杉原記)