神野紗希『光まみれの蜂』(角川書店 2012年4月)

神野紗希『光まみれの蜂』(角川書店 2012年4月)

神野紗希句集『光まみれの蜂』

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『光まみれの蜂』は神野紗希さんの第1句集。平成14年に「初期句集」として『星の地図』(まる工房)を出版されているが、集録句を含めて改めて本句集を第一句集として出版されたとのこと。平成11年から23年までの13年間から256句を集録。
神野紗希さんは、昭和58年生まれ、俳句甲子園をきっかけで俳句をはじめ、「NHK俳句王国」の番組司会などで活躍。昨年5月には当ページでもたびたび紹介している「spica」というwebサイトを江渡華子、野口る理と共に立上、作句のみならず、評論の形で活躍している。現在は御茶ノ水女子大大学院で俳文学の研究をなさっている。小諸の「日盛俳句祭」にも参加いただき、昨年は「夜盛会」にもご参加いただいた。
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 「新撰21」の100句と句の雰囲気は大きくは変わっていない。のびのびとして作風で、読んでいて心地よい風が吹いてくるような句が多い。「甘い」と思える句もあれば「上手い」と思える句もある。省略を効かせ詩情に溢れている句が並んでいる。口語を多用しながらも「切れ」が意識されており、その点は深く感心した。
 モチーフとしては「光」と「風」に溢れており、何とも清冽な印象の句集である。月並みな感想になるが「若いって良いな」と改めて感じさせられる一集である。
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 カーラジオ立夏を告げて途切れけり 紗希
→季題は「立夏」。車に乗ってラジオをつけていたらラジオから「今日が立夏」です。と喋りトンネルに入ったのか、ラジオに雑音が交じり聞こえなくなった。
「立夏」五月五日、六日頃の気候は非常に素晴しい。その日を改めて夏の初めと感じ、ラジオの雑音にこれから来る夏のプランを重ね合わせていているのだろう。言葉を飾らずに己が感じたことを素直に表現することで、定型と季題の力で素晴しい詩になった。
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 桃の花老人はみな眩しそう 紗希
→季題は「桃の花」。桃の実が若さの象徴であることは良く知られる。その、桃の花が持つ若さを眩しく老人が見上げていた。そのご老人はかつては大変御美しかったのであろう。桃の花が咲く頃の「風光る」様子が全てを肯定的に捉えている。口語でありながら、上五の体言止めの切れの余韻を上手く活かしている一句。
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 評論の世界でも大活躍されている彼女であるが、その活躍が鋭い分、後半の俳句は季題そのものを描くと言うより、「時評」を描いている感が強くなってきた。それはそれで一つの表現のあり様だと思うが、初期の頃の瑞々しい表現とかなり異なってきているように感じた。
 当面、若手俳人の代表として各所に作品を発表する彼女の俳句の変化についてこれからも楽しみにしていきたい。勿論、それに刺激を受け我々が「深は新なり」を究めていくことが必要である。
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その他の印をつけた句を紹介したい。
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起立礼着席青葉風過ぎた
白鳥の頸のカアブを真似てみよ
オリオン座木の実使つて説明す
ライオンの子にはじめての雪降れり
草笛の最後は川へ流しけり
天道虫死んでははみ出たままの翅
ここもまた誰かの故郷氷水
傾いて懸かる巣箱やクリスマス
枯園や水色多き案内図
ガーベラのラの埋もれたる苗札ぞ
カレーパン齧るや屑がマフラーに
コンビニのおでんが好きで星きれい
キリンの舌錻力(ブリキ)色なる残暑かな
初日の出板一枚が海に浮く
みんなよくはたらく桜どんどん散る
四部屋のコーポ翠に目白来る
カニ缶で蕪炊いて帰りを待つよ
何を見ていた黒髪に雪を降らせて
以上(杉原記)
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