山中多美子『かもめ』(本阿弥書店 2012年4月)

山中多美子『かもめ』(本阿弥書店 2012年4月)

山中多美子『かもめ』

『かもめ』は山中多美子さんの第2句集。平成11年から23年までの13年間から319句を集録。山中多美子さんは昭和24年愛知県生まれ、昭和60年に宇佐美魚目氏に師事する形で句作をスタート。現在は「晨」「琉」「円座」同人。「熱田の森文化センター」俳句講師を勤められている。
「夏潮」名古屋句会にも時折参加いただき、私も一度句会を共にさせて頂いたことがある。大変穏やかでありながら、言葉に対して鋭敏な感覚をお持ちであると感じた。
 文学に対する造詣がおありなのであろうか、万葉へ思いを馳せた句の多くに心の弾みを感じることが出来た。
 漁りや伊勢に大きな雪がふり 多美子
→季題は「雪」。「伊勢」の隣国「志摩」は良く知られているように、鮑など魚介物を穀物の替りに宮中へ年貢として納めていた「御食国(みけつのくに)」。伊勢も当然主要な魚介の提供地であっただろう。また、伊勢には伊勢神宮があり日本国の豊穣の神様を奉っている。
そのような伊勢の地に雪が降っている。大伴家持の歌ではないが、この雪が一年の豊穣をもたらす吉兆であるまいかという句。ゆったりとした上五の打ち出し方で句全体の雰囲気を形成することに成功している。
 初鏡かもめのこゑがふえきたる 多美子
→季題は「初鏡」。新年初めて除く鏡、特に女性にとっては意識するものであろう。それを覗いた際に外でかもめの声が増してきた。如何にも新年を迎える喜びが伝わってくると共に、この一年に掛ける作者の気持ちが伝わってくる。「かもめ」も随分数多く詠まれている題材で、それぞれ山中さんの心の弾み具合に和していると感じた。
 本句集を通じて同じ季題、テーマで詠まれた作品が多く、詠んでいて単調に感じられる点があったのは、若干損をしていると感じた。もう少しご自身の写生の目を信じて句作の幅を広げられるとさらに作品が楽しみになると思った。
その他の印をつけた句を紹介したい。
ひらきたる和訓栞冬の畦
如月のかもめのこゑを炭問屋
あをあをと夜空流れて葛の花
裕次郎の映画見にゆく土用浪
西行谷花びらほどの雪がふり
日出づる国なり種を下しけり
筍を下げて寺町めぐりけり
早蕨に小さな瀧のかかりをり
鉞の案外かろし雲の峰
走り根に道もり上り西行忌
島の子の素潜り上手夕焼けて
浦々や八朔祭の藁を干し
秋風や船荷の瓦下しゐる
上ミに家かたまつてをり葛の花
三寒の葉もの根ものを洗ひをり
水門に棹をねかせて蜆舟
終戦日透きとほりたる烏賊の骨
以上(杉原記)

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